韓国軍単独訓練、対北抑止弱める危険行為


 韓国が自ら北朝鮮への抑止力を弱めていると言われても致し方あるまい。韓国軍は単独で4日間にわたって災害やテロなど有事を想定した大規模合同訓練「乙支太極演習」を行った。米国と合同で行ってきた定例の指揮所演習「乙支フリーダムガーディアン(UFG)」は昨年中止されており、今回の訓練はそれに代わるものとされるが、米軍不参加が長期化すれば戦力低下はもちろん即応能力にも深刻な支障を来す。極めて危険だ。

 北刺激避けたい文政権

 訓練には韓国の軍兵士や政府職員ら約48万人が参加したが、防衛的性格が強調され、戦時を想定した反撃訓練は除外されたという。もともとUFGでは北朝鮮の軍事攻撃を視野に入れた作戦計画を確認する机上演習が行われていたことを考えれば、今回の訓練は対北抑止の面でUFGより後退している。

 韓国軍単独で訓練を行ったのは、文在寅政権が北朝鮮を刺激せず、融和ムードを再び高めたいためだろう。昨年6月のシンガポールでの米朝首脳会談後、大規模な米韓合同軍事演習の中止が決まった。だが、それは北朝鮮非核化の呼び水にはなっていない。韓国政府が目指す朝鮮半島の平和につながる兆しも見えない。

 昨年9月の平壌での南北首脳会談では、軍事境界線を挟み、韓国、北朝鮮双方の軍事力を削減することで合意し、その一部は履行された。しかし、兵力削減は韓国側がはるかに大きく、その上、北朝鮮側は検証できないという結果を招いた。韓国では多くの退役軍人や軍事専門家が危機感を抱き、合意見直しを求める動きもある。

 南北融和ムードがそのまま軍事的緊張緩和につながらなかったことは、韓国歴代政権下で行われた南北首脳会談後にも北朝鮮が核・ミサイル開発の手を緩めなかったことから明らかだ。

 懸念されるのは政治が安全保障政策をいとも簡単に左右してしまう韓国の現実だ。軍首脳部までが所信を隠し政権の意向を汲(く)もうとする姿まで見られる。北朝鮮の脅威が低下したという事実が確認されない限り、対北抑止力は最大限の警戒態勢で維持されるべきだ。

 米軍の訓練不参加にもかかわらず北朝鮮は韓国を非難している。国営メディアは「あらゆる北侵戦争演習は完全に中断されて当然」と主張し、代替演習を含む完全中止を要求してきた。北朝鮮の目標は一貫して在韓米軍の撤収だったことを忘れてはなるまい。

 これに先立ち米韓両国の国防相は、朝鮮半島有事の作戦指揮権を在韓米軍から韓国軍に移管させる問題で話し合ったが、移管は北朝鮮の完全非核化後でも遅くないという指摘が韓国国内からも上がっている。米軍が後退する安全保障政策に警鐘を鳴らす当然の声だろう。

 日本にも重要な米韓同盟

 北朝鮮は今月上旬に短距離弾道ミサイルを相次いで発射するなどいつでも武力挑発を再開させられることを示唆した。韓国はもちろん日本の安全保障にとっても重要なのは、韓国が米国との軍事同盟を再び強固なものにし、北朝鮮に挑発を思いとどまらせることだ。