比南部の教会で爆弾テロ

 フィリピン南部のカトリック教会で自爆テロが発生し、120人以上が死傷する惨事となった。過激派組織「イスラム国」(IS)に忠誠を誓うイスラム過激派のアブサヤフが犯行に関与していると考えられているが、自爆テロ容疑者はインドネシア人である可能性が浮上。捜査は難航しており、犯行の動機をめぐってさまざまな臆測が流れている。
(マニラ・福島純一)

インドネシア人男女の犯行か
自爆の手本見せた可能性も

 スールー州ホロ町で1月27日、教会で二つの爆弾が相次いで爆発し23人が死亡、100人以上が負傷した。まず午前8時15分ごろにミサが行われていた教会内で爆発があり、続けて教会の正門近くで爆弾が爆発した。2回目の爆発は現場に駆け付けた兵士や警官を巻き込んで多数の死傷者を出した。

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爆発が起きたフィリピン南部スールー州ホロのカトリック教会(WIKIMEDIA COMMONS より)

 アニョ内務自治長官が2月1日、爆弾テロに関して、ISと関係があるインドネシア人による自爆テロだったとの見解を示した。事件直後に国軍関係者は自爆テロを強く否定していたが、現地を視察したドゥテルテ大統領が、男女のテロリストによる自爆テロだと発言するなど情報が錯綜(さくそう)した。イスラム過激派のアブサヤフが、現地に不慣れな外国人テロリストを教会まで手引きしたと考えられている。

 現場からは、自爆テロを裏付ける正体不明の遺体の一部が発見された。発見されたのは男女の足の一部だが、DNA検査の結果から23人の犠牲者のいずれでもないことが判明しており、テロを行った男女のものと考えられている。捜査当局は今後さらに検査を進め、判断を行うとしている。

 さらに、女の容疑者が昨年12月にフィリピンに到着し、アブサヤフの支援者に10歳の娘を預けていたことも分かっている。フィリピン政府はインドネシア政府と協力しながら捜査を進め、テロ容疑者の身元を明らかにする構えだ。

 フィリピン南部では、イスラム教徒が多い地域にイスラム自治政府を創設する「バンサモロ基本法」の施行に伴い、自治体の自治区への編入の是非を問う住民投票が行われている最中だった。爆弾テロが起きたのは2回目の投票日の約10日前だった。そのため、バンサモロ自治政府の創設に反対するイスラム過激派のアブサヤフが犯行に深く関与していると指摘されていたが、実行犯が外国人であることで別の動機も考えられる状況だ。

 爆弾テロに関する捜査をめぐっては、直後に国軍関係者が自爆テロを強く否定したり、たまたま付近の防犯カメラに映っていた若者グループを容疑者として公開したが、後に無関係であることが判明するなど、当初から混乱していた。

 情報収集がうまく行えなかった可能性が高く、戒厳令がテロ対策としてうまく機能していない実態も浮き彫りとなった。外国人のテロリストの入国を見逃し、さらに自爆テロを実行されたのは致命的なミスといえる。

 ISに忠誠を誓うイスラム過激派が乱立し、爆弾テロが多発するフィリピンだが、意外なことに自爆テロは極めて少なく、フィリピン人によるものはほとんど事例はない。フィリピンは世界的に見ても自殺が極めて少ない国であり、宗教に関係なく自分で命を絶つことに対する抵抗感が強い。このような国民性にそぐわないことが、自爆テロが過激派に根付かない理由と考えられる。

 アニョ内務自治長官は地元メディアに対し、「2人のインドネシア人は自爆テロの手本を示したかった」との見解を示し、フィリピンに自爆テロを根付かせる布石としての目的があった可能性を指摘した。

 しかし、その一方で「われわれの文化はそのような習慣は容認しない」とも述べ、国内における自爆テロの拡大は困難との見方を示した。同長官はミンダナオ島に依然として自爆テロの訓練を受けた外国人テロリストが潜伏している可能性を指摘し、治安当局による監視活動を強化する方針を示している。