仏の黄色いベスト抗議運動、国民の55%が運動継続望む
フランス・マクロン政権への黄色いベスト抗議運動は、クリスマス休暇に一旦参加人数が減ったものの今月5日には盛り返し、2カ月を超えた。政府は抗議運動の鎮静化のために、今年の増税策を取り下げ、最低賃金引き上げなど妥協の姿勢を見せる一方、エスカレートする暴力への厳罰化を打ち出し、世論も大きく揺れている。
(パリ・安倍雅信)
初期の改革強行に不信感
今年2回目、通算9週目となったマクロン政権に抗議する黄色いベスト運動の全国一斉デモが12日行われ、パリでは再び凱旋門周辺で警官隊と衝突した。政府は暴力対策として前回5日の5倍の5000人の警官・憲兵隊をパリで動員、全国動員数は8万人に及んだ。
仏西部ルーアンでは取材中の仏ニュース専門TVのジャーナリストがデモ参加者数人から激しい暴行を受け、警備同行者も重傷を負った。パリやマルセイユでも撮影中のマスコミのTVクルーが襲撃される事件が起き、リエステー文化相は、ツイッターで「看過できないリンチ事件」だと非難した。
内務省の発表で5日のデモには全国で約5万人が参加、年末クリスマス休暇時期に減少した規模が盛り返した形だ。12日の参加人数はパリで8000人、ブールジュで6700人、トゥールーズで5500人、ボルドーで4500人など8万4000人に増加し、同運動が収束に向かっていないことを見せつけた。
12日のデモは、地理的にフランスの中心に位置するブールジュ(人口6万6000人)の町に集結するよう呼び掛けられ、日頃平穏な町がデモの騒乱に巻き込まれた。パリでは同日午前、経済・財務省前に参加者が集結、平穏にデモ行進が行われたが、凱旋門に到着後に荒れ始め、警官に向かって火炎瓶を投げるなど、一部が暴徒化した。
5日のデモでも、デモ隊が解散直前にパリの政府庁舎の玄関口の扉をフォークリフトで破壊し、侵入したため、グリボー政府報道官が一時避難する事態に追い込まれた。政府は政府機関周辺でのデモを禁じているが、デモ隊側はデモへの不当な弾圧と抗議している。抗議運動は精鋭化、暴力化しており、当局は対応に苦慮している。
マクロン大統領は今月6日、「(フランス)共和国やその守護者、代表、象徴が過激な暴力によって再び攻撃された」とツイッターに投稿し、内務省はデモの暴力現場の映像を一般公開し、国民の理解を求めた。年明けより、政府は抗議運動の暴力に対して厳罰化する方針を打ち出したが、運動参加者はひるむ様子を見せていない。
特にグリボー政府報道官が4日に、政府は経済改革の手は緩めないことと強調し、デモを今もなお続けているのは、政府転覆を望む無政府主義の扇動者だと非難したことで、デモ参加者の強い反発を買っている。
政府は現在、国民との議論をオープンに行う全国民的な議論プロジェクトを準備し、意見を聞く機会を特別に設ける動きを見せている。しかし、マクロン政権が2017年春の発足以降、議会も通さずに労働法の改正や国鉄改革を断行し、政府は一方的に改革を断行しているとのイメージが定着しているため、反発が収まるかどうか疑問視されている。
一方、パリ、トゥールーズなど複数の都市で6日、数百人単位の女性が黄色いベストを着用し、平和的に抗議するデモ行進を行った。抗議運動で中心的に動いてきた女性たちは抗議の基本姿勢である「抗議の声は上げるが、あくまで非暴力」という運動の原点に立ち返ることを示すために行進を行ったと説明している。
最新の世論調査では、国民の55%が黄色いベスト運動の継続を望んでおり、大方の見方としては、活動は継続するものの参加者の数は減り、残った参加者の一部がますます過激化、精鋭化するだろうというものだ。
ただ、暴力行為については国民の大半が批判的で、暴力のエスカレートから黄色いベスト運動が国民の支持を失いつつあるという指摘もある。フィリップ首相は政治的抗議活動と暴力は別問題との認識を当初から示しており、暴力に対しては厳罰で臨むとしている。今後は危険人物リストを作成し、彼らがデモ現場に行くのを阻止したいとしている。
12日のデモ参加者が増え、警察だけでなく、マスメディアに対しても暴行を行い、抗議運動がエスカレートしていることは深刻に受け止められている。
若いマクロン大統領と大半が素人政治家で構成される与党では、もはや対応できないとの見方も政界内では浮上している。