仏刑務所に聖戦思想拡大
過激思想の囚人 隔離・更生へ新施設
ベルギー東部リエージュの路上で5月29日に警官ら3人を殺害した事件の容疑者が、刑務所服役中に聖戦過激思想に傾倒した事実が確認され、刑務所内がテロリスト育成の温床になっている問題が注目されている。フランスでも数年前からテロの容疑者の刑務所内での過激化が問題になっており、対策が急がれている。
(パリ・安倍雅信)
ベルギーでも刑務所が温床に
イスラム過激派から感化
ベルギー・リエージュの路上で射殺されたバンジャマン・エルマン容疑者は、事件発生前に収監先の刑務所から2日間の外出許可を得ていた。捜査当局によれば、その収監先の刑務所内でイスラム過激思想に傾倒したことが確認されている。
同容疑者は、地元メディアなどによると、軽犯罪を重ね、収監先の刑務所内でイスラム過激派の受刑者と接触していたことが確認されている。同事件では過激派組織「イスラム国」(IS)が犯行声明を出しており、ネット上に公開されたラマダン中に奨励されたテロの手口に似ていたことも判明している。
今のところ、事件の背景に組織的な関連は確認されていない一方、ローンウルフ型の単独犯行だった可能性が濃厚とみられている。特にこの数年、テロリストを取り締まる警官や兵士を直接標的としたテロがフランスやベルギー、英国などで増えており、ISの関連サイトもテロを取り締まる当局への直接攻撃を呼び掛けている。
2016年3月にブリュッセルで同時テロを経験したベルギーでは、以前から刑務所が聖戦主義拡散の場になっていることが問題視されていた。
具体的にはベルギー国内で約450人の過激思想持った受刑者がおり、うち46人は他人を過激化する恐れがあるとの認識を同国内務省は示している。そのため、ベルギー国内ではエルマン容疑者に対して、どうして外出許可を与えたのか批判の声が上がっている。
一方、フランスでは南部カルカソンヌ郊外で3月23日に車のハイジャックやスーパーマーケット人質立てこもりで4人が死亡、16人が負傷するテロ襲撃事件が起きた。容疑者のモロッコ人の男は刑務所内で過激思想に感化されたことが確認されている。
フランスでは19年末までに聖戦主義に感化された受刑者約450人が出所する予定としている。仏法務省の発表では、テロへの直接、間接の関与で収監されているのは512人、そのうち20人が今年、30人が19年に出所する予定とされる。
その他、軽犯罪などで収監され、刑務所内で過激な思想に感化された受刑者が約1200人いることが確認されており、彼らのうち400人が19年末までに刑を終え、出所する予定だ。
パリ検事総長のモランス検事は、テロへの関与で収監されている受刑者の中には「過激思想をまったく改めないまま出所するケースもあり、懸念している」という認識を示している。
フランスでは今年2月末、国の重要政策としてイスラム過激思想の蔓延(まんえん)を防止するための新たな対策を発表。刑務所内での対策として、現在収監中の過激化が認められる囚人の数に相当する総計1500の隔離スペースを全国に設け、まずは今年末までに450カ所確保する方針を打ち出した。
政府の予想では、過激思想に傾倒する若者の数は、今年さらに増加が予想されている。さらに個別のケアができる更生センターをリール、リヨン、マルセイユの3カ所新設し、監視付きで釈放された者に対しては、週6時間専門チームが過激思想から抜け出させる更生プログラムを実施する。
フランスでは14年に過激化防止センターを設立し、無料電話相談サービスが同年5月に開設され、15年のテロの頻発で、人的、物的、財政面で強化された。しかし、現在、フランスでは約1万9000人が過激思想に染まっているとみられ、対策チームがケアしているのは、2600人の個人と800家庭にとどまっているのが実情だ。
公教育での過激思想拡散防止および公共サービスからの過激思想追放策も強化された。しかし、聖戦思想に傾倒する受刑者の更生は非常に困難で、新たな対策を必要としている。それも環境の改善も必要で、包括的な対策が求められている。