「こうのとりのゆりかご」11年


 棄(す)てられる命を救いたいと、熊本の慈恵病院が始めた「こうのとりのゆりかご」(通称赤ちゃんポスト)は、5月10日でちょうど11年。当初「年に1人あるかないか」という予想に反し、10年で130事例を超えた。

 「安易な子棄てを助長する」「子供が出自を知る権利が奪われる」といった批判がある中、匿名だからこそ救える命があると、匿名で受け入れてきた。

 ゆりかご10年の検証報告を読むと、9割超が県外からの預け入れだ。自宅で孤立出産し、生命の危険を冒して、飛行機、電車等で長距離移動の末、ゆりかごに辿(たど)り着いている。24時間電話相談では、平成26、27年度で約1万6000件の相談が寄せられた。やはり県外からが多い。

 匿名性が、安易な預け入れにつながっている面も見られる。4年前には死亡した子がゆりかごに置かれる、死体遺棄事案も起こっている。ゆりかごがなかったら130人の生命はどうなっていたか。電話相談で救われた母子も相当数いるであろう。そう思うと、ゆりかごの存在は大きい。

 一方、この10年で虐待死が減ったわけではない。ゆりかごにも至らない、赤ちゃんをモノ同然に扱う、残酷な子棄て事件が後を絶たない。先月19日、大阪府枚方市で自宅トイレに女児を産み落としたとして、31歳の母親が逮捕された。翌週には千葉市の17歳少年と交際相手の16歳少女が、少年の自宅で出産後に天井裏に遺棄した疑いで逮捕された。子供が置かれている状況はあまりに深刻だ。

 検証報告をまとめた関西大学の山縣文治氏は「ゆりかごが直接的に子供の生命を救ったかどうかについて検証できない」と総括している。改めて思うのは、家庭、地域、学校それぞれの教育の役割の重要性である。生まれた子が人として育つ、養育環境の土壌づくりに国を挙げて取り組んでほしい。

(光)