北朝鮮への圧力弱めるな
米コラムニスト マーク・ティーセン
米国の対北戦略は順調
演習への反発は焦りの証拠
北朝鮮が米韓軍事演習に反発し、トランプ大統領との首脳会談の中止を警告したことは、トランプ氏の北朝鮮戦略が順調に進んでいることの証拠だ。
この数カ月間、トランプ氏は金正恩氏を封じ込めてきた。まず経済的圧力を強化し、歴代大統領とは違って軍事行動を取る意思のあることを明確にした。トランプ氏が金氏からの会談の提案受け入れを即断したと報じられ、誰もが驚いた。金氏自身も驚いただろう。トランプ氏は、提案を拒否したり、譲歩を引き出すための取引材料として利用したりせず、「イエス」と言い、誰も予想しなかったスピードで北朝鮮との核交渉へと漕(こ)ぎつけた。
合意への条件を整え始めると、どのような合意にすべきでないかから取り掛かった。北朝鮮は、オバマ大統領がイランと交わしたような核合意を望んでいる。まず制裁緩和があり、何十億ドルもの資金、弱い査察体制、その先にはサンセット条項があり、核開発への制限は緩和されていく。トランプ氏は核合意から離脱することで、あのような合意は交わさないという明確なメッセージを北朝鮮に送った。
◇安全と繁栄約束
次いでトランプ氏は高官らを使って、どのような合意なら交わせるか、その条件を説明させた。金氏は非核化の約束と引き換えに資金提供を望んでいる。ボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)は「フェース・ザ・ネーション」で、悪い警官の役目を果たして、イランとのような合意は交わさないことを明らかにした。トランプ氏が資金を出すのは、核放棄が実行された場合だ。ボルトン氏は、「(トランプ氏は)核兵器を放棄する戦略的決定の明確な証拠」を求めているのであり、「リビアと同じである必要はないが、具体的で実質的でなければならない。金正恩氏も同じように考えている可能性があり、話を聞いてみるべきだ」と述べた。
ボルトン氏が非核化への期待を示す一方で、ポンペオ国務長官は良い警官を演じ、金氏が合意すれば、安全と繁栄が待っていると二つのニンジンをぶらさげ、「北朝鮮がすぐに非核化に本格的に取り組めば、米国は、韓国の友人たちと同じような繁栄が得られるよう北朝鮮に協力する用意がある」と語った。この驚くべき提案に金氏は動揺したはずだ。トランプ氏と会談し、韓国と同等の繁栄を約束する取引を拒否すれば、北朝鮮の人々の惨状を欧米のせいにすることができなくなるからだ。
つまり、トランプ氏と国家安全保障チームは、金氏を追い詰め、平和、安全、繁栄を提示したが、それはまず、非核化が完全、検証可能、不可逆的に行われた場合だけということだ。北朝鮮が反撃に出るのも無理はない。
◇米韓にくさびか
金氏は、トランプ氏との会談をやめる条件を探しているのかもしれない。軍事演習は格好の言い訳だ。
トランプ氏がどれだけ会談に真剣なのかを見るために試しているのかもしれない。会談に先立って、米国と韓国の間にくさびを打ち込もうとしているのかもしれない。韓国の文在寅大統領が北朝鮮への「太陽政策」に意欲的であることを金氏は知っている。北朝鮮が少し寒いと言えば、米朝会談を強く望んでいる韓国は、トランプ氏に軍事演習を中止するよう求めたり、もっと柔軟に交渉に臨むよう働き掛けたりするだろう。
トランプ氏は、演習の中止を拒否することで、脅しには屈しないことを金氏に示す必要がある。その裏では、直ちに非核化すれば、安全と繁栄が待っていることを北朝鮮に再確認し、その一方で、拒否すればこのままでは済まないことを明確にすべきだ。制裁は強化され、軍事行動を起こすこともあり得るということだ。何より重要なのは、トランプ氏は、北朝鮮の今回の反発を、焦っている証拠だと取ることだ。
追い詰められた動物は吠(ほ)えるが、それは追い詰められたからだ。踏ん張りどころだ。圧力を弱めてはならない。
(5月18日)






