地震後の「通電火災」に備えよ

濱口 和久拓殖大学大学院特任教授 濱口 和久

感震ブレーカーの設置を
地震保険への加入も不可欠

 熊本地震から2年が過ぎた。熊本地震では観測史上初めて、2度の震度7の地震に見舞われ、50人が犠牲となった。そして、20万棟近い家屋が損壊するなどした。熊本地震では、地震後に通電火災が起きたという報告は1件もされていないが、震度6弱以上の地震が起きた場合には、間違いなく通電火災が起きる可能性が高い。

 通電火災を簡単に説明すると「大規模な地震などに伴う停電が復旧し、通電が再開される際に発生する火災」。

 通電火災が注目されたのは、23年前の阪神・淡路大震災のときだ。神戸市内だけで157件の建物火災が発生。原因が特定できた55件のうち35件が電気火災で最も多く、そのうちの33件が通電火災だった。7年前の東日本大震災でも、本震による火災が111件起きたが、原因が特定されたものが108件。そのうちの過半数が通電火災だった。

 なぜ通電火災が起きるのか。電気ストーブや観賞魚用ヒーター、オーブントースター等の電熱器具を使用中に地震が起こると、揺れの影響で可燃物がヒーター部分に接触した状況になることがある。すると、停電から復旧した際に、それらの器具が再度通電することによって、可燃物が過熱されて出火するのだ。

 電熱器具には、過熱防止のサーモスタットや、転倒時OFFスイッチ等の安全装置が設置されてはいるが、地震時の室内の状況によっては、落下物等により正常に作動しないことがあり、火災が起きる。揺れの影響で配線被覆が傷付き、復旧した際に配線がショートして付近のほこりに着火したり、漏れたガスに引火したりして火事になった事例もある。

 通電火災の一番の怖さは、地震が起きたときに同時に出火するのではなく、避難し無人となった室内から時間差で出火するところにある。これにより発見、初期消火が遅れ、散乱した室内の状況と相まって、あっという間に火災が拡大する。

 通電火災を防ぐ方法は、単純に「避難する前にブレーカーを落とす」だけだ。ところが、実践するとなると話は別で、停電による暗闇と、いつまた余震が来るかもしれないという恐怖の中、冷静にブレーカーを落としてから避難するのは非常に困難となる。

 そこで、人に代わって震度5強で電気を自動的に遮断して、ブレーカーを落としてくれる「感震ブレーカー」という便利なアイテムがあり、いろいろなタイプが販売されている。

 今後30年以内に首都直下地震や南海トラフ巨大地震が起きる確率が70%と予想されている。冒頭に述べた通り、地震火災では通電火災が最も多い。総務省消防庁や各自治体も、通電火災を抑制するため、木造住宅などが密集している火災多発エリアを中心に感震ブレーカーの普及促進に取り組んでいる。

 平成25年12月の内閣府世論調査によると、感震ブレーカーを設置している世帯は6・6%と極めて低い普及率にとどまっている。調査から5年がたった現在でも、あまり浸透していない。

 もしもの火災に備えて、ほとんどの家庭が火災保険に加入している。だが、地震後の電気の復旧に伴って起きる通電火災で自宅が燃えた場合は、火災保険では補償されない。なぜなら、損害保険会社の火災保険では、地震によって起きた火災を全て保険の補償外とする「地震免責約款」があるからだ。

 この免責事項は、地震直後の火災はもちろん、通電火災のような地震後数時間、あるいは数日してから起きた火災でも、原因が地震と関係あると判断されると適用される。阪神・淡路大震災では、9日後に起きた火災も補償を認められなかったという事例がある。

 もし隣の家で通電火災が起きて、それが自宅に燃え移った場合でも、火災保険は補償外となる。理不尽に感じる人もいるかもしれないが、通電火災を含め、地震による火災も補償してほしいという場合は地震保険に加入しておく必要がある。

 ちなみに地震保険は、地震によって建物や家財に損害が発生した際に、その損害を補償するという保険で、地震保険は国の制度によるもので、どこの保険会社でもまったく同じ内容になっている。契約は火災保険に追加するかたちになるので、火災保険に加入していないと地震保険には加入できない。地震保険は、火災保険の保険金額の30~50%の範囲内で、建物は5000万円、家財は1000万円まで補償してくれる。

 家を火災でなくすことは、生活再建をする上でも大きな負担となる。地震保険にまだ加入していない家庭は、ぜひとも加入してほしい。

 各家庭が感震ブレーカーを設置することは、火災から自分や家族の財産を守ることにつながるし、「自助」の取り組みとしての防災対策でもある。

(はまぐち・かずひさ)