本格的なシェルター整備急げ

拓殖大学地方政治行政研究所附属防災教育研究センター副センター長 濱口 和久

濱口 和久

核や津波から国民保護
諸外国より極めて低い普及率

 北朝鮮が核実験・ミサイル発射(実験)を繰り返す中、日本ではシェルターへの関心が高まっている。

 NPO法人日本核シェルター協会の調査によると、日本は人口当たりのシェルター普及率が0・02%しかない。スイスとイスラエルは100%、ノルウェーは98%、米国は82%、ロシアは78%、英国は67%、シンガポールが54%となっている。日本はシェルターの整備が諸外国に比べて非常に遅れている。

 日本が諸外国に比べてシェルターの整備が遅れたのにはさまざまな理由がある。その一つに、日本は唯一の被爆国であり、戦争と言う忌まわしい過去を思い起こしたくないということもある。また、日本は昔から地下室を造る文化がなかった。日本は湿度が高いため、古代から地下室を造るよりも、風通しのいい高床式の建物が多く造られた。そのため地下シェルターを造るという文化が広がらなかったのだろう。

 今年の3月11日で、東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)から7年となる。東日本大震災では多くの人が津波の犠牲となった。シェルターは北朝鮮からの脅威だけでなく、津波避難の視点からも必要な施設だ。

 現在、東日本大震災で津波の被害に遭った地方自治体や、今後、津波による被害が予想される地方自治体では、地上4~5階建ての鉄製の津波避難タワーを建設している。だが、その高さでは足の悪い人や、お年寄りが上るのに時間がかかるし、体力もない。津波は早ければ数分で到達するので、上っている途中で波にのまれる危険性もある。地上ではなく、地下に津波対応型のシェルターを造れば、短時間の移動で安全を確保できるし、核シェルターとしても利用でき一石二鳥となる。

 イスラエルとスイスでは、学校や病院等の公共施設には公共シェルターがあり、有事の際は国民に呼吸用の防毒マスクが無料で支給される。ノルウェーにも、公共の場にシェルターがあり、有事の際には国民の大半を収容可能だ。スイスでは1963年、核シェルターの設置を義務付ける連邦法が制定された。同時に公共シェルターのネットワークを管理する連邦民間防衛庁を新設。2012年から自宅の下にシェルターを設置しない場合は、自治体に1500スイスフラン(約19万円)を支払い、最寄りの公共シェルターに家族全員分のスペースを確保することになっている。ノルウェーの隣国であるスウェーデンは、首都ストックホルムをはじめ主要都市に全住民を収容できるシェルターを設け、日頃は地下駐車場や屋内運動場などに使用している。

 米国は、軍事施設や政府機関にシェルターを完備し、米国戦略軍は核戦争をも想定した単一統合作戦計画を堅持し、米国本土の守りを万全にしている。近年、公立の小学校、中学校、高校に「3カ月生存の地下シェルター」も逐次整備している。ロシアも冷戦時に大都市を中心にシェルター設置を奨励しており、現在では冷戦時の名残としてサンクトペテルブルク地下鉄やモスクワ地下鉄がその役割を果たしている。16年、ロシア非常事態省は「モスクワ市民全てを地下シェルターに避難させる用意ができた」とも発表している。

 英国では、有事の際に指揮を執る政治家や政府高官のためのシェルターは完備しているものの公共シェルターはない。シェルターに入れない国民には、屋内退避が指示されることになっている。シンガポールは国民の86%が公団住宅に住み、1997年のシェルター法の法制化以後に建設された住宅公団の各住戸には、核や災害に備え、シェルターが設置されている。

 北朝鮮と国境を接する韓国の場合は、地下鉄の駅や線路(経路)をシェルターとして使えるように設計されているため、日本の駅よりは頑丈な造りになっている。特にソウル市は地下鉄の駅が地下深くまで階層で伸びており、多くの住民が避難できるようになっている。人口密集地域には、空襲等に備えた地下退避施設が整備され、民間施設でも床面積60平方メートル以上で退避可能な地下室がある場合は、避難場所として使用できるようになっている。これらの国以外にもシェルター整備をしている国は数多くある。

 冒頭に触れた通り、北朝鮮の核実験・ミサイル発射(実験)の脅威から、日本でも家庭用シェルターの注文が増えている。地方議会で問題意識を持って、シェルターの質問を行う議員も出てきた。長野県軽井沢町では、廃線となったJRのトンネルをシェルターとして活用することも検討されているようだ。

 今後は、防災マップにシェルターとして利用できる施設を表示したり、街中にシェルターとして利用できる施設の案内版を設置したりすることも必要となってくるだろう。政府・与党からは、住宅の新築に合わせてシェルターを設置した場合に、優遇措置を付与すべきだという案も上がっている。

 諸外国は、核攻撃から国民を守るためのシェルター整備を積極的に行ってきたが、日本政府はおろそかにしてきた。北朝鮮が核・ミサイルを放棄しない限り、シェルターの整備を急ぐべきだ。

(はまぐち・かずひさ)