4月末を過ぎたら手遅れに、「断油」が北を止める最後の道

どう見る北の脅威

米戦略国際問題研究所上級アソシエイト ラリー・ニクシュ氏(下)

北朝鮮の核・ミサイル開発を止める方法はあるか。

ラリー・ニクシュ氏

 トランプ米政権がやらなければならないのは、石油の全面禁輸だ。石油の全面禁輸だけが、金正恩朝鮮労働党委員長を核・ミサイル開発で譲歩に追い込むほどエリート層と軍部に深刻な打撃を与える可能性のある制裁だからだ。

 国連安保理制裁は原油・石油精製品の輸出を制限しているが、中国・丹東から北朝鮮に延びるパイプラインや黄海などでのタンカーによる密輸を通じて北朝鮮に渡る石油の量が制限の範囲内なのかどうか確認できない。全面禁輸によって、海上での密輸は制裁違反と断定でき、丹東のパイプラインも国連による監視を主張できるようになる。

 石油禁輸を中国に同意させるために、トランプ政権は中国に「最大限の圧力」をかけなければならない。だがトランプ政権は安保理でブッシュ、オバマ両政権が失敗したのと同じパターンに陥ってしまっている。

 米国は安保理で毎回、複数の制裁項目を提案するが、中国、ロシアとの交渉で両国が反対する制裁は決議から外されるということを繰り返している。トランプ政権が過去2回の決議案に盛り込んだ石油の全面禁輸も外されてしまった。

石油禁輸を実現するにはどうすればいいか。

呉海濤氏(右)とヘイリー氏

2017年11月29日、国連安保理緊急会合後に中国の呉海濤国連次席大使(右)と意見を交わす米国のヘイリー大使(AFP=時事)

 中国とロシアに交渉の余地を与える、複数の制裁項目を盛り込んだ決議案はもう必要ない。トランプ政権は石油の全面禁輸だけに絞った決議案を提出すべきだ。中国とロシアに賛成か反対かの選択を迫るのだ。

 中国に賛成させるには取引を提案する必要がある。中国が石油の全面禁輸に応じ、検証可能な形で実行することを条件に、トランプ政権は6カ国協議への復帰と、韓国に配備した高高度防衛ミサイル(THAAD)の1年間の運用停止、米韓合同軍事演習の1年間中止を提案すべきだ。

 中国とロシアは、北朝鮮が核・ミサイル開発を凍結する代わりに米韓合同軍事演習を中止することを提案しているが、そのような限定的な凍結は米国にとって受け入れられない。だが中国とロシアが石油禁輸に応じるなら可能だ。THAADの運用と米韓合同軍事演習を中止する1年間で、石油禁輸が北朝鮮に譲歩を強いるほど体制に打撃を与えているかを見極められる。

 中国が米国の決議案に反対するなら、トランプ政権は中国に提案した取引内容を公表して中国に圧力をかけるべきだ。また中国国営石油最大手の中国石油天然ガス集団(CNPC)をはじめ、北朝鮮とビジネスをする中国企業に重い金融制裁を科すと警告すべきだ。

 五輪後の3月か4月に北朝鮮が再び核実験か長距離ミサイル発射を行えば、安保理でまた制裁が議論されることになる。その時、石油の全面禁輸を実現できなければ、もう手遅れだ。北朝鮮の核・ミサイル開発を止めることは不可能になる。われわれに残された時間は、あと数カ月しかない。

「数カ月」とは具体的にどれくらいか。

 北朝鮮は7月までに米本土を核弾頭で攻撃できる大陸間弾道ミサイル(ICBM)の生産・配備を開始するだろう。石油禁輸を始めるタイムリミットは、最大で4月末までだ。もう3カ月も残っていない。

北朝鮮のICBM開発には大気圏再突入技術の問題が残っているのでは。

 再突入技術は基本的に、核弾頭が宇宙空間から大気圏に入ってくる時の高熱に耐えられるようにすることだ。弾頭が受ける高熱は実験室でも再現できる。米国もかつて核弾頭開発でそうした。それでも北朝鮮は今後数カ月以内に発射実験を2、3回行うかもしれない。

(聞き手=編集委員・早川俊行)