逆方向の「歴史の終わり」へ、国際NGO報告から

山田 寛

 年明け、「フリーダムハウス」(FH)や「ヒューマンライツ・ウォッチ」(HRW)など、有力国際NGOの2018年版調査報告書を読み、気がふさいだ。

 FHは1970年代から世界各国・地域の民主・自由度を客観的に調査し、総合点100点満点で、ベストの1から0・5刻みで7までランクをつけている。

 その最新報告書が「民主主義は過去数十年で最大の危機に直面している」と激しい警鐘を鳴らし、こう指摘しているのだ。

 ① 過去12年連続で、自由度低下国が上昇国より多かった。12年間で113カ国が低下、

上昇は62カ国だけである。

 ② 米国が民主主義のチャンピオンから退きつつある。ランクも初めて1・5に下がった。

 ③ それを機に、専制大国の中国、ロシアが国内抑圧を強化。他の国々にも悪影響を与え、民主主義軽視傾向を増大させている。中国の総合点は14点(08年は18点)、ランクは6・5だが、中でもチベット地域は1点で世界ワースト2である。ロシアは20点、ランク6・5(03年は42点、ランク5)。ロシアが支援するシリアはマイナス1点でワースト1だ。

 ④ トルコやハンガリーなど、10年前は民主主義成功物語の代表だった国が強権統治へU

ターン。トルコは08年の66点、ランク3から32点、ランク5・5へ転落した。

 ⑤ 若者たちが民主主義への信頼と関心をなくしている。将来への最大懸念である。

 HRWは左寄りだが人権NGOのリーダー格だ。その報告も、専制的ポピュリズム(大衆迎合)の台頭と共に、米英はじめ多くの民主主義国が国内問題に追われ、他国の人権への関心を減じ、中露が空白を反人権的方策で埋めようとしていると警告する。

 そして重大な人権問題を抱える国として中露、トルコ、エジプト、ミャンマーなどを名指ししている。因(ちな)みに、NGO「国境なき記者団」の18年頭の集計では、世界で拘留されているジャーナリストは327人で、中国とトルコが断然多い。

 冷戦終結直後の92年、米政治学者F・フクヤマが「民主主義が全体主義に勝ち歴史が終わった」とする『歴史の終わり』を著したが、今は昔である。スマホ、SNSの時代、セクハラ糾弾の「ミー・トゥー」(# Me Too)は広がっても、民主主義や自由の総体は広がらないのか。

 先週のトランプ米大統領の一般教書演説にも民主主義や人権の居場所はなかったし、訪中したメイ英首相の関心も商談第1だった。

 そんな中で改めて日本のスコアに注目したい。FH報告で03年の88点から96点に上昇、その間ランクも1・5から1になった。野党や左派メディアが、特定秘密保護法や安保関連法などの導入の度に「違憲だ」「戦争法だ」と叫んだが、日本は堅実に民主・自由度を高めているとの評価なのだ。

 1月には、米科学者たちが1947年以来定めている「世界終末時計」の18年版も発表された。今や人類滅亡(午前零時)までの時間がたった2分。冷戦初期と並ぶ最短タイ記録である。

 90年代に耳にした民主平和論(民主主義国間ではほぼ戦争は起きない)も、近年は余り聞かない。だが世界平和のためにも、やはり民主主義と自由は拡大すべきではないか。米国が牽引(けんいん)に消極的なら日本の役割は重くなる。米国がまた積極化するよう働き掛け、日本の途上国支援も、普遍的価値推進を一層重視して実施すべきだ。

 そして、日中関係改善は絶対必要だが、中国が反民主・反自由・反人権の影を地球に広げるのを手伝うまい。「一帯一路」計画への協力には最大限の注意が必要だろう。

 逆方向の「歴史の終わり」が来ないために。

(元嘉悦大学教授)