ビタミンC不足は老化を加速

老化制御研究チーム研究部長 石神昭人氏

 老年学・老年医学公開講座(主催・東京都健康長寿医療センター)が、東京都北区王子の北とぴあ さくらホールでこのほど開かれた。東京都健康長寿医療センター研究所老化制御研究チーム研究部長の石神昭人氏が「ビタミンCの不足は老化を加速」と題して公演した。

壊血病や肺疾患の予防にも効果

ビタミンC不足は老化を加速

老化制御研究チーム研究部長 石神昭人氏

 ビタミンCの欠乏症である壊血病がきちんと、記録されたのは、中世ヨーロッパの大航海時代、ポルトガルの船長だった、バスコ・ダ・ガマの航海日誌だ。アジアからヨーロッパに香辛料を運ぶルート、アフリカの喜望峰を経由した航路を開拓するため、140人と4艘(そう)の船団を預かってリスボン港を出発した(1497年7月5日)。インドのカリカットまで行きに約10カ月、帰りも同じくらい期間を要し、往復で約2年の航海だった。航海中に船員が口や鼻から出血し、食欲も減退、バタバタと倒れていった。航海中に海賊に襲われる以上に恐れられていたのが「壊血病」だった。

 壊血病の解決のため軍命令で医学史上初の臨床試験を行ったのが18世紀のイギリス海軍の船医、ジェームス・リンドだ。壊血病になった船員を2人ずつ6チームに分け、硫酸薬、酢、海水、ニンニク、リンゴ、オレンジ・レモンを食事に加えて与えたところ、リンゴ果汁で若干の改善が見られ、オレンジ・レモンを与えたチームでは、ほぼ完治した。このことから、ジェームス・リンドはオレンジ・レモンの果汁に壊血病を治す成分があることを発見した。

 最初にビタミンを純粋な物質として単離したのはハンガリー出身の生化学者アルベルト・セント・ジェルジ。1927年にウシの副腎から強い還元力のある物質の結晶を分離し「へキスロン酸」と名付けた。1932年に壊血病の治療効果を証明、ヘキスロン酸がビタミンCそのものであることが分かった。1937年にノーベル医学生理学賞を受賞した。

 年齢を重ねると、若い人以上に摂取していても腸管での吸収能力が低下したり体内での消費量が増えたり排泄(はいせつ)量が増えることで血中のビタミンCが減少してくる。

 慢性閉塞性肺疾患(COPD)は日本での死因の第10位、喫煙経験のある、高齢者がなりやすく、肺気腫や慢性気管支炎を併せた肺の病気。治療方法がないので、死に至るもの。ビタミンCの不足が発生リスクを高めている。マウス実験では、ビタミンCを十分に与えていれば、肺胞の崩壊が起こらないし、崩壊した肺胞が修復することが分かってきた。

 厚生労働省が策定したビタミンCの1日摂取量は100㍉㌘、これは、壊血病を防ぎ、生活習慣病を予防する最低限の量。ビタミンCの効果を発揮させるのはその10倍、1㌘が必要。ビタミンCを過剰摂取しても、速やかに尿で排泄されるため、副作用はない。健康長寿を全うするためにも、新鮮な野菜や果物、飲料、サプリメントからビタミンCを十分に取る必要がある。