東京裁判の不消化状態を脱せ

NPO法人修学院院長・アジア太平洋交流学会会長 久保田 信之

久保田 信之

勝者による愚劣な報復
平和条約に基づき全戦犯解放

 「日本が侵略戦争を行ったということは、東京裁判の法廷で明らかになったのではないでしょうか。判決を受け入れたからこそ、当時の指導者たちが戦犯として処刑されたのでしょう」

 こういった主張は、小、中、高校の歴史教科書で教えられているから、致し方ないとはいえ「日本が侵略戦争をした」とか「アジア諸国に多大な迷惑をかけた」とか、「東京裁判で明らかになった」とか「戦犯として処刑された」といった、結論だけを覚えさせられていては、心の動かない日本人を増殖するだけなのだ。この裁判と称する茶番劇が、日本の歴史を大きく変形させたし、日本人の精神的支柱を揺るがせた一大事であったことは、再認識してほしいものだ。

 「東京裁判」すなわち「極東国際軍事裁判」を克明にたどる紙面はないが、既に多くの研究書や評論書が巷(ちまた)に出回っているから、ぜひ一度手に取ってこの裁判がどのような経過で進展し、どのような結末を迎えたかを、じっくりととらえ直していただきたい。

 今回、問題とする「東京裁判」にしても、「もう過ぎ去ったことだ。今さら俎上に載せてもどうなるものでもない」と不問に付する人が多数いると思うが、東京裁判の正当性を否定する意見は今も少なくない。この意見をも無視するわけにはいかないので、以下にその代表的な問題点だけを列挙してみることにする。

 ①原子爆弾の使用など連合国の行為は対象とされなかった②日本の法曹界関係者が裁判に参画していなかった③戦争を遂行するまでの過程が十分明らかにされていない④日本側から提出された弁護資料はほぼ却下された⑤検察側の資料は事実ではなく伝聞であっても採用された⑥派遣された判事の内、自国において裁判官の職を持っていない者がいた(中国の実例)⑦この裁判での公用語(英語)を使用できない者がいた(ソ連、フランスなど)。

 当初から裁判の体をなしていないと孤軍奮闘、論陣を張って主張したのが、唯一の国際法学者のインド代表のパール判事である。さらに言うならば、全能の神の座に君臨して東京裁判はじめ日本の占領政策を牛耳った連合国軍最高司令官D・マッカーサーでさえも、この裁判の間違えを認めたし、東京裁判を運営した裁判長W・ウェブやキーナン検事も同じく「あの裁判は間違えであった」と後に述懐しているのである。

 ところが「わが国は、サンフランシスコ講和条約第11条で、極東国際軍事裁判所の判決(judgments)を受諾(accept)しており、この裁判について異議を述べる立場にないと考えます」との見解を日本の外務省が発表して、この裁判を否定する発言を抑えたのだ。

 そもそも戦争状態を終息させるために日本が受諾したのはポツダム宣言だが、その第10条には「捕虜虐待を含む一切の戦争犯罪は処罰されるべきである」とあり、これを受諾したのであるから、連合国による裁判の開始・運営を拒否することはできないのだ。

 この裁判が連合国によってつくられた「勝者によるリンチ」であり「愚劣な仕打ち」であったことは、今や日本人ばかりでなく広く心ある世界の人々に認められていることである。文明に逆行する東京裁判として絶対に認めてはならないとの主張にも正当性はある。

 しかし、ここで注意しなければならないことは、「日本国は、極東国際軍事裁判所ならびに国外の他の連合国戦争犯罪法廷の裁判を受諾し、かつ、日本国で拘束されている日本国民にこれらの法廷が課した刑を執行するものとする。うんぬん」で始まる「サンフランシスコ平和条約」を日本政府が受諾し調印した事実は否定できない、ということである。

 以上、詳細に検討したような諸事情を背景に持つ「東京裁判」は、軽々に否定できるものではない。むしろ「歴史的事実」を冷静に緻密に検討して感情を整理すべきなのである。

 もう一つ、直接裁判とは関係ない話だが、「東京裁判の結論」を利用して、日本を犯罪人の立場に押しとどめ置こうとする中国、韓国の問題も整理しなければならない。まずしっかりと確認すべき事柄は、マッカーサーを中心とした連合国11カ国の中に現在の中華人民共和国は入っていない事実の確認だ。判決文第5章にある中国とは中華民国なのである。韓国という国も、そもそも存在していない。両者とも連合軍の一員ではなく、対日戦争に勝利した国でもないのだ。「東京裁判」の構成員として「日本の悪」を追及し、裁いた当事者であったかの発言を現在もしているが、両国とも日本を裁く立場になく資格もないのだ。

 さらに力説すべきことは、1951年のサンフランシスコ平和条約によって、わが国は主権を回復し、極東国際軍事裁判所によって刑を宣告された者については、第11条の規定に基づき、赦免、減免の処置が施され、戦時下にあった際の「戦争犯罪人」は、一人残さず全て解放されたという事実である。それ故、靖国神社には「A級もB級も、戦犯などは祭られていない」。日本人は、この事実をしっかりと確認しなければならないのだ。いずれにせよ「東京裁判」についての不消化状態を一刻も早く解決する必要があるのだ。

(くぼた・のぶゆき)