なぜ今、解散総選挙なのか、時期と争点に疑義を唱える文春・新潮

◆争点とすべきは改憲

 安倍晋三首相が国連総会から帰国し、本稿が掲載される頃には解散総選挙の日程が明らかになっていることだろう。野党や一部メディアは猛反発しているが、一気に選挙モードに突入する。

 「大義なき解散」と野党は批判している。解散権が国政の争点や内閣の信任について国民に信を問うための大権であるとすれば、その批判はあながち間違ってはいない。安倍首相は「消費税率引き上げ分の使い道として、子育て支援、教育無償化の財源に充てる」ことを打ち出すようだが、これでは話が違うからだ。

 消費税率引き上げは、世論の動向などを気にして、2度までも引き上げを見送っており、やるにしても、もともと財政再建や経済政策に向ける方針だった。それが誰もが反対しづらい「子育て支援、教育無償化」を前面に打ち出すのは、野党も同じような政策を出してくるだろうから、争点ぼかしと取られても仕方ない。

 むしろ争点として前面に出すべきは、憲法改正であり、安保法制や対北朝鮮対策の意義を国民に問うことではないのか。北朝鮮情勢が緊迫している中でこそ、正々堂々と国家の安全保障や国の在り方の根幹を問うべきで、むしろ、多数を得ているからできることでもある。

 こうしたやり方に自民党内はもとより保守陣営からも厳しい意見が出ている。元厚生政務次官を務めた政治評論家の長野祐也氏は、「安倍晋三を『王道でなく覇道の政治家』と後世は評価するだろう」として、「権力をどう抑制して使うか、コントロールする姿を見せるべきなのに、(安倍首相の行動は)すべてが政権維持のためだ」と批判する。

◆来年増す?北の脅威

 週刊誌もさっそくこのような「解散」に疑義を唱え出した。週刊文春(9月28日号)は「邪道」と断じている。「ノンフィクション作家の保坂正康氏」は同誌に、「自民党に有利な状況だからといって解散するのは政党政治とはいえません。安倍首相による政治の私物化に他なりません」と厳しく批判する。

 「佐瀬昌盛防衛大名誉教授」は「安倍首相の頭には、もう一度、三分の二の改憲勢力を確保することしかない」と語る。3週間の政治空白をものともせず、緊迫の度を増す北朝鮮情勢をも利用して、改憲勢力確保に邁進するのだ。ならばこそ、争点は消費税の使い道ではないはずだが。

 週刊新潮(9月28日号)では解散を「トランプ大統領が決断させた」と報じた。北朝鮮が水爆実験を行った9月3日から安倍首相は「解散を考えるようになった」とし、「トランプとちょくちょく電話会談していて、そのなかで、“北の脅威は来年の方がずっと強まる”という確証を得た」と「政治部デスク」の見方を引用している。

 なぜ来年かについて、同誌は「官邸関係者」の話として、「近いうちに軍事オプションはない」との判断と、「来年9月9日には北朝鮮建国70周年の節目を迎えるし、それに向けてミサイル開発に注力するのは目に見えている」からだとの見通しを紹介した。それでタイミングとしては今だと決断したのだという。

◆裏で激しい駆け引き

 一説には水爆実験以前の8月ごろから、安倍首相は早期解散を考えていたという話もあるが、同誌は触れていない。10月には中国共産党大会が控えており、この時期に北朝鮮が中国の面子をつぶす軍事行動や核・ミサイル実験を行う可能性は低い。11月にはトランプ大統領が訪日し、米軍最高指揮権者が東アジアにいることになる。それまでは北朝鮮もおとなしくしているとの読みだ。それ以降、軍事的緊張が高まれば、首相は解散の機を逸する、という計算があったということだ。

 だが、同誌で「元外務省主任分析官の佐藤優氏」は、技術力達成と対米直接交渉の二つの目的が「成就しないうちは、核やミサイルの実験を止める合理的な理由はありません」と述べ、北朝鮮は日米が思うように、都合よく核・ミサイル実験を控えたりはしない可能性を示唆している。

 小泉訪朝に同行した飯島勲特命内閣参与は、週刊文春で「第二次朝鮮戦争の瀬戸際みたいな緊迫した今こそ、裏で対話のチャンスも出てくるのよ」と述べる。安倍首相の「対話でなく圧力」という言葉が額面通りなのか、裏では激しい駆け引きが続いている。

(岩崎 哲)