道徳教育の視点から命の教育を考える

聖徳大学大学院教職研究科教授 吉本恒幸氏

 東京都文京区の東京大学弥生講堂で「新学習指導要領の求める命の教育の実践」をテーマに全国学校飼育動物研究大会が、このほど行われた。聖徳大学大学院教職研究科教授の吉本恒幸氏は「道徳科」の立場から、学校飼育動物との関わりについて語った。

より良く生きたいと願う心を育むような動物飼育を

道徳教育の視点から命の教育を考える

聖徳大学大学院教職研究科教授 吉本恒幸氏

 道徳科の目標は、善悪の判断基準を示し、生きる基盤となる道徳観を養うことにある。より良い生き方を志向する感情を養い、大事な行為や行動を心の中で働かせ、決意のようなものに昇華させ、やがて行動として表れていく。意図的・計画的に授業で行われることもあるが、他の学習の場で、偶然、単発的に行われることもある。

 人とか社会との関わりの中で、自然、果てしない宇宙など、崇高なものとの関わりの中で自分自身と対話しながら、生きている。価値観が違うとしても、仲良くすることは当たり前であり、誰も否定することができない。

 低学年では生きることの素晴らしさを知り、生命を大切にすることを教え、中学年では生命の尊さを知り、生命あるものを大切にすることを、高学年では生命が多くのつながりの中で掛け替えのないものであることを理解し、尊重することを、中学では生命の連続性や有限性などを含め理解し、尊重することをレベルに応じて教え、育むことを目指す。

 生命に関する道徳の教材として『電池が切れるまで―子ども病院からのメッセージ』(角川書店)を使うことがある。余命5年といわれた少女が命ある限り精いっぱい生きようとして、最後の4カ月に書き記した詩を元に文章が構成されている。少女の生き方とは反対に「自分の命なんかいらない」と自殺する人もいる。とても残念で命ある限り「精いっぱい生きよう」とする生命の尊厳を語っている。

 ハムスターの赤ちゃん、10日でこんなに大きくなった。ビックリする、「オッパイを吸っている、目が開いてないな~」と気付く。学校で動物を飼育することで「ぼくら、赤ちゃんの時は何もできなかったが、今はこんなことができているぞ~~。私も僕も、いろんなことができるな~」と生き物に関わることを通して、生きることの素晴らしさ、生命を大事にすることを知ること。

 また、一方で、寿命となってハムスターが死ぬ時、どんなに手厚く手当てして「頑張って生き続けて」と願っても、死んでしまう。生命には生まれ育つということと、死ぬということの二面性があることを知る。

 吉本氏は最後に「生命のありがたさを知り、生命の属性に気付く大きなきっかけになるような動物飼育を行ってほしい。最終的に、より良く生きて、生きたいと精神的なものに昇華させていくことだ」と語った。