「BRあづま2017」を研修して
「公助」に備え真摯な準備
災害時の「最後の砦」自衛隊
梅雨明け前の北九州での豪雨など日本はその地勢から自然災害の多発地帯である。実際、地震から火山爆発、風水害などに毎年のように見舞われている。加えて地球温暖化など環境破壊がもたらす全球的な災害も加わってくる。これら災害への対処には、一人一人が自らを守る「自助」、身近なコミュニティーで相互に扶助する「共助」、さらに国家的な規模で展開される救助活動の「公助」の3段階があり、それぞれが有効に連携し、機能を発揮することで国民の安全は守られる。災害対処は、段階的には防災、緊急救助と救援による被害の局限、さらに復旧・復興と続くが、段階を経るごとに「公助」の役割が重要になる。
見てきたように「公助」の根幹をなす自衛隊の災害対処は、「最後の砦(とりで)」としての活動成果のみならず活動を通じて見せる自衛隊員の献身性や忍耐性などが被災民を鼓舞し、全国民の一体感醸成を促すなど見えない形而上の効果も大きい。その「公助」を全うするために自衛隊は平素から黙々と準備に努めており、本稿でその一端を紹介したい。
自衛隊の防災訓練は定期的に政府や自治体、関係機関などと一体となって進められている。平成29年度は「南海トラフ地震発生時を想定し、自衛隊と関係機関等が連携して、災害対処能力の向上を図る」目的で、「自衛隊統合防災演習(Joint Exercise for Rescue:以下JXR)」が実施された。そのJXRの一環として陸上自衛隊の東部方面隊は「ビッグレスキューあづま2017(以下、BRあづま)」演習が6月から実施され、防衛省オピニオンリーダーに委嘱されている筆者はその防災演習を参観する機会があった。「BRあづま」演習は机上演習(TTX)、指揮所演習(CPX)、実働演習(FTX)の3段階で進められたが、その実態と研修で得た所見などを披露したい。
周知のように南海トラフ地震は70%の確率で関東から九州に至る広域で同時発災する予測で、死者32万人、要救助者は34万人に及ぶとの見方がある。研修した「BRあづま」演習は、戦闘服姿で陣頭指揮に立つ森山尚直総監の下で6月12日に朝霞駐屯地でTTXが進められ、関係機関との連携を図る実務レベルの研究会が幾つかの会場で進められた。各会場には内閣府はじめ消防、警察、海保、さらに国土交通省など10指に余る中央省庁から、また自治体からは東京都など10都県と重要都市からも代表が参加していた。さらに指定公共機関として東京電力、東京ガス、高速道路、日本赤十字、NHK、NTTなど、また隊友会や自衛隊家族会も参加していた。
TTXでは、参加各機関の代表者による熱誠溢(あふ)れる真剣な取り組み姿勢が印象的であった。特に本年はDMAT(災害急性期に活動できる機動性を持ったトレーニングを受けた医療チーム)が朝霞駐屯地内ヘリポート近くに施設を開設し自衛隊の衛生部隊などと一体となって演習をしていた。搬送されてくる多数の負傷者を仕分けしてヘリコプターで病院に緊急後送する一連の手続きが展開され、同時大量に発生する負傷者を被災状況下で優先順位を付けて病院に後送する難しい選別業務を民間医師団と自衛隊とがテキパキ処理する連携活動に感銘を受けた。
また今回は出動隊員の後顧の憂いを解消する試みも演習されていた。これまで自衛官自身が被災者となりながらも家族を残して出動してきたが、「肝心な時にお父さんは僕らを助けてくれなかった」の声から、出動隊員の家族支援に目が向けられた取り組みがあった。自衛官の家族支援に退職自衛官から成る隊友会や子弟を自衛隊に入れた全国自衛隊家族会が立ち上がり、留守家族の確認援護という現実的な支援活動の検討に着手しており、心強く思われた。
FTXの見学では、6月25日に横浜港の一角にあるノースドックでの米陸軍の汎用上陸用舟艇(LCU)に救援物資や車両の積み込み演習を研修した。実のところ筆者は米陸軍が横浜港に独自の施設を管理し、海上輸送艦艇を保有している事実を知らなかったが、今次「BRあづま」では日米共同で孤立地域への応急支援にLCUで車両や物資の搬送訓練が実施された。
このLCUは翌早朝に沼津海岸に到着して、荷揚げ作業も日米共同で実施された。LCUは砂浜など港湾施設のない地点にも達着できる艦艇とはいえ、太平洋から大きな波が押し寄せる砂浜への陸揚げ作業は大変であった。陸自隊員と米陸軍人が腰まで水につかりながら一体となって協働作業する姿に歴史を重ねた日米同盟の神髄を見た思いであった。
ちなみに沼津海岸の一角は、米海兵隊が訓練用に借り上げた地域であり、そこが利用された。今次LCU輸送の演習を通じて、わが国もこの種の艦船を公助手段として準備すること、また孤立予想地域の海岸の達着条件などの事前調査や被災時に備えて一定地積を予め借り上げることの必要性を提案したい。
このように今年も「BRあづま」から「公助」に備えた真摯(しんし)な準備演習に多くを学び、感謝の念を深くしたが、翻って「自助」「共助」の実態はどうなっているか、国民の側も行政や「公助」に頼るばかりでなく自ら災害対処に平素から関心と努力を払う必要性を、自らの反省を込めて痛感した次第である。
(かやはら・いくお)