ストーカー、法改正を被害防止につなげよ
インターネット交流サイト(SNS)への投稿を規制対象に加えることを柱とした改正ストーカー規制法が成立した。
これまでのストーカー事件では、警察の不手際で最悪の事態となったケースが少なくない。法改正を被害防止につなげなければならない。
SNSを規制対象に
改正法では、無料通信アプリ「LINE」(ライン)にしつこくメッセージを送信することや、ブログに中傷を書き込むなどSNSを使ったストーカー行為を新たに規制の対象とした。
今年5月には、東京都小金井市でアイドル活動をしていた女性がファンの男に刺され、意識不明の重体となった事件が起きた。男は女性のツイッターに「自分の後ろには誰がいるか考えたことがある?」「そのうち死ぬから」など過激な文言の書き込みをしていた。
2000年11月に施行されたストーカー規制法は、執拗(しつよう)な面会の強要や電話・メール送信など八つの行為を規制対象としていた。だが、ツイッターなどSNSへの書き込みは規制していなかった。今回対象に加えたのは遅きに失したとはいえ、当然のことだ。
このほか改正法では、ストーカー行為への罰則の上限を「懲役6月または罰金50万円」から「懲役1年または罰金100万円」に引き上げた。さらに緊急時には事前警告なしに都道府県公安委員会が禁止命令を出せること、被害者の告訴なしに起訴できる「非親告罪」とすることも盛り込んだ。対策強化という意味で、一歩前進とは言える。
しかし、法改正をすれば済む話ではない。これまで警察はストーカー被害の相談に適切に対応せず、最悪の事態を招いたことが少なくなかった。今年5月の事件でも、女性は事件前に男の書き込みを印刷して警視庁武蔵野署に持参し、「やめさせて」と依頼したが、同署は「直ちに危険が及ぶ内容ではない」と判断し、ストーカー事案として扱わなかった。せめて自衛策を指導するなどしていれば、事件を防げた可能性もある。
また事件の3年前に警視庁万世橋署が別の女性から男とのトラブルの相談を受けていたが、登録システムに男の名前を入力していなかった。13年10月に起きた東京都三鷹市のストーカー殺人事件でも、警察の連携不足が惨劇の一因となった。
今年5月の事件を受け、警察庁は危険性や切迫性の判断が難しい場合でも、ストーカー事案などを扱う本部の専門部署に速報し組織的に対処するよう、全国の警察本部に通達した。法改正を機に、警察はストーカー被害への相談や各署間の連携体制が十分か改めて確認し、被害防止につなげるべきだ。
摘発強化に取り組め
全国の警察が15年に把握したストーカー被害は2万1968件に上る。前年よりは減少したものの、統計の残る00年以降で2番目の多さとなった。2年前の内閣府の調査では、女性の10人に1人がストーカー行為を受けた経験があり、被害女性の3割が「命の危険を感じた」と回答したという。警察は被害者の安全確保を最優先した上で、摘発強化に取り組む必要がある。