トランプ旋風、切り札に? 仏次期大統領に影響

右派政党を後押し
EU離脱や移民排除に共通点

 米大統領選に勝利したドナルド・トランプ氏が巻き起こした旋風が、来春に予定される仏大統領選挙へも少なからず影響を与えている。既得権益を持つ政治的エリートへの嫌悪や移民締め出しを掲げたトランプ現象は、EU離脱や移民排除を掲げるフランスの右派政党にも追い風となっている。既存の大政党を嫌う有権者の動向が、次期大統領に大きな影響を与えそうだ。パリ・安倍雅信)

新しい政治求める有権者

 トランプ氏が勝利した後、フランスの右派・国民戦線(FN)のマリーヌ・ルペン党首は13日、英国営放送BBCとのインタビューで、「トランプ氏は過去に不可能とされていたことを可能にした」と述べ、賞賛の言葉を送った。

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フランス右派政党・国民戦線(FN)集会で、FNの旗や国旗を振る支持者たち=9月3日、北東部ブラシェ(AFP=時事)

 FNは昨年12月に行われた地域議会選挙の第1回投票で、全国13地域圏のうち6カ所で首位に立った。FN以外の与野党が共闘したため、第2回投票では全ての地域圏で敗退したが、もはやすべての政党の共闘なしにFNの勢力拡大を止めることはできない状況だ。

 ルペン党首は前回12年に行われた大統領選挙前の世論調査で、最も大統領になるにふさわしい人物に選ばれたこともある。

 トランプ旋風は、欧州連合(EU)にも大きな問題提起となった。英国の離脱決定は、EUの執行機関である欧州委員会を動かす政治エリートの官僚主義に対して強い不満を抱いていたからだった。トランプ氏を支持した有権者の多くが、ワシントンの政治エリートへの嫌悪感を抱いていたこととつながる。

 FNの歴史は長く、結党当時の1980年代は、反共を旗印に掲げ、移民に職を奪われたと考える白人労働者層だけでなく、上流層にも支持が広がっていた。しかし、マリーヌ・ルペン党首率いる現在のFNは、父親とは異なり、行き過ぎた金融資本主義やグローバリゼーションのような新自由主義に反対し、フランスの福祉国家モデルを擁護している。

 そのため、移民嫌いの極右層だけでなく、左派をも取り込み、幅広い層に支持が拡大している。FNは、フランスは財政的に不安定なユーロ加盟国の犠牲になっているとし、自国通貨のフランを復活させれば、輸出の競争力が増し、景気回復は容易と主張している。

 FNが支持されている理由には、国家の主権をEUから取り戻すことと並び、移民問題やテロなどの治安対策がある。特に欧州最大規模の600万人のアラブ系移民が持ち込んだイスラム教は、フランス社会を大きく変えた。

 シリアやイラクの戦闘地域に戦闘員を送り込んでいる数も欧州最大規模で、国内でも昨年1月の風刺週刊紙シャルリー・エブド編集部襲撃テロに始まり、11月には、パリのバタクラン劇場で130人がテロの犠牲となった。今年も7月の革命記念日に南仏ニースで、大型トラックが群衆に突っ込むテロ事件などが起きた。

 一方、オランド政権で仏経済相を務め、9月に辞任したエマニュエル・マクロン氏が先週、無所属で大統領選に立候補することを表明した。選挙で選ばれた政治家ではないが、フランスでは過去に、シラク政権の時に官房長や内相を務めたドビルパン氏が首相になったこともあり、その優秀さと38歳の若さから支持者も多い。

 政策的にはEUを重視し、英国のEU離脱には否定的で、フランスの景気低迷や社会的な格差拡大に対し独自の経済政策で解決できるとしている。長年、高失業率に悩まされ続け、景気回復ができない閉塞(へいそく)感が漂うフランスで、マクロン氏への期待は高まっている。

 最大野党・共和党からサルコジ前仏大統領やジュペ元仏首相、フィヨン元仏首相、与党・社会党からバルス現仏首相やオランド大統領が立候補に意欲を見せているが、マンネリ化した既存政党の政治に不信感を抱く有権者は少なくない。

 フランスは現在、他のEUの大国同様、高失業率、社会的格差の拡大、移民増大による社会の不安定化、治安問題を抱えている。特にアラブ系移民が人口の1割に達しているのはEU内ではフランスだけで、テロの脅威から非常事態宣言が継続している。

 大統領選では、これらの問題に対して現実的、具体的な回答が求められている。その意味でも絵に描いたような理想主義ではなく、国民が直面する課題を既成の政党政治ではないリーダーシップで解決しようとする米国のトランプ氏勝利は、フランスの大統領選にも大きな影響を与える可能性がある。