両候補者とも投票に値せず

Charles Krauthammer米コラムニスト チャールズ・クラウトハマー

計算高いクリントン氏
政策も信念もなく不適格

 ヒラリー・クリントン氏の件は、ウィキリークスと連邦捜査局(FBI)が最近、情報を公開する前からすでに報じられていた。しかし、これらの文書は確かな裏付けとなる。

 最もセンセーショナルなものは、国務省とFBIの間で提示された取引だった。FBIがクリントン氏の電子メールの機密を解除し、国務省はFBIの海外拠点を増やすという取引だ。センセーショナルと言われるのは、公的なアカウントではあまり見られない「見返り」という言葉が出てくるからだ。見返りがあるかないか、これが受け入れ可能な腐敗と受け入れ不可の腐敗の間を分ける境界線となっている。

 しかしこれは、奇妙であり、不愉快極まりない。まず、クリントン陣営から何人かが排除された。これには、クリントン氏と国務省のために活動していた同省のキャリア高官も含まれていた。コンドリーザ・ライス氏の下でも同じポストに就いていた高官だ。

 第2は、取引を申し出たのがどちらかがはっきりしないことだ。第3は、実体のあることは何も交わされることになっていなかったこと。気持ちに対してロレックスで応えるたぐいの、個人への見返りはなかった。これは、不正であり、罰則を科せられる可能性がある。

 最終的にそのようなことは起きなかった。FBIは、機密解除の要請を拒否した。

 要するに、疑いはあるが、証拠はない。確かに、「見返り」という言葉が出なければ、それほど注目されなかったはずだ。その上、スキャンダルの真相が分からなくなっている。選挙戦と候補者にとって、これはもう皮肉としか言いようがない。

 最後の討論会でクリントン氏は、クリントン財団での見返りについての質問を受けるとはぐらかし、答えなかった。だが、それは無理もないことだ。電子メールからは、財団への献金は好意によるもので、規約に従って行われていることが分かる。

 外部の法律事務所によるガバナンス評価では、一部の献金者は「贈与に対して見返りを期待している可能性がある」と報告されている。外部の法律事務所がこれを言う必要があるだろうか。ハイチの現状を見て心が痛んだのなら、直接ハイチに寄付すればいい。クリントン家を通じて寄付すると、将来の便宜への期待が生まれるからだ。

 野望と利権の絡むこの選挙戦の非情さが、このメールの中にははっきりと出ている。とりわけ、側近らの選挙戦のあり方についての質問のメールからはそれがうかがえる。ほとんど注目されていないが、クリントン氏が、スピーチライターが講演全体のテーマと理論的根拠について教えなかったと不平を言っている一節がある。これは、候補者自身の仕事だ。側近の一人、ジョエル・ベネンソン氏に「メッセージの核心をどのようにしたいと思っているのかについて、何らかの説明を受けただろうか」と聞いている。

 実際には中身は何もなく、すべての政策も見解も、交渉次第で、政治的な計算に基づいているということだ。だからこそ、自由貿易に対して強い逆風が吹くと、環太平洋連携協定(TPP)に対して、何事もなかったかのように反対し、周りを驚かせることができる。

 ドッド・フランク金融規制改革法のような金融規制についてもそうだ。クリントン氏は、ゴールドマン・サックスの集まりで、金融危機を受けて「何か対策を講じる必要がある。政治的理由から、…じっと座って何もせずにいることはできないからだ」と述べていた。

 だがこれは取り繕ったにすぎない。エリザベス・ウォレン氏がドッド・フランク法(金融規制改革法)を支持したのはそんな理由からではない。ここが、ウォレン氏のような信念の政治家と、クリントン氏のような計算機との違いだ。

 当然、これはすべて知られている。しかし、明確には明らかにされてこなかった。ウィキリークスのしていることは反道徳的で、違法であり、ソーセージ工場の監視カメラのようなものだ。きれいなものでは決してない。

 ウィキリークスのせいでクリントン氏に反対するようになったわけではない。保守派として、その世界観、政策にはこれまでずっと反対してきた。性格に関しては、長い間観察した結果、大きな欠陥を抱えていることが分かった。不適格と言っていいほどだ。しかし、これまでの経緯に納得できないのなら、このところのメール公開問題は終わりとすべきだ。

 影響の大きな問題であり、予備選を戦った十数人の共和党立候補者に対抗し、クリントン氏の対抗馬に票を投じることは簡単だ。しかし、ドナルド・トランプ氏に反対することは私にとってはジレンマだ。クリントン氏に投票する気はない。しかし、このコラムで説明してきたように、トランプ氏にも投票しない。

 唯一の問題は、誰の名前を書くかだ。アルバート・シュバイツァーの名前は二重の意味で書けない。米国民でない上に故人だからだ。ポール・ライアン氏かベン・サス氏にしようか。2週間で決めねばならない。

(10月21日)