成功しない北朝鮮経済 核と経済の並進路線は無謀
宋大晟 元世宗研究所所長
外部支援の道を閉ざす
北朝鮮は5月に36年ぶり開いた第7回労働党大会で金正恩体制をどのように経営するかを内外に明らかにした総合的な青写真であり、主な内容は、
▲金正恩は核兵器開発と経済建設の並進路線を進めて北朝鮮を核保有強国にした「21世紀の偉大なる太陽」であり、「朝鮮労働党委員長」に就任し、独裁体制をさらに強化
▲北朝鮮の核保有は、社会主義の国家建設過程で特記する大事変であり、党の規約に「核保有国」と明記して国際的に認定されるかとは関係なく、「恒久的核保有国」であり、「東方の核大国」として本格的に行動
▲核と経済の並進路線は、北朝鮮が今後追求する恒久的な国家戦略路線
▲南北軍事会談の提案
▲韓国の北朝鮮に対する心理戦の中止要求
▲在韓米軍の撤退を要求
▲北朝鮮に敵対的姿勢をとる場合はソウルを解放し、米国を壊滅させる
▲高麗連邦制による統一案の追求―などだ。
要するに、北朝鮮は「核保有国」として発展させた“核と経済の並進路線”を恒久的な国家戦略路線と確定し、国家経営を国家戦略路線よって履行することを明らかにした。
核・経済並進路線は、金正恩政権発足4カ月目の2013年3月31日、労働党中央委員会の全体会議で決められ、翌日、最高人民会議で採択された「国家経営戦略」のマスタープランである。主な内容は、経済大国と核武力建設を最高の国家発展戦略目標と設定し、国を統治していくということだ。結局、金正恩は彼の父親である金正日が求めた先軍政治(軍事第一主義)を固守しながら、北朝鮮の経済も発展させていくという内容だ。
先軍政治の主な内容は、北朝鮮の強い軍事力は、①朝鮮半島を統一できる統一の源であり、②体制を完璧に守られる体制の擁護力であり、③対韓国・対外交渉力という内容だ。ところが、ここでの強い軍事力とは、北朝鮮が保有している在来式軍事力も含まれるが、最も中心的なのは大量破壊兵器、つまり核兵器、ミサイル、そして生物化学兵器を意味する。
北朝鮮は強い軍事力の確保のためにあらゆる苦難を乗り越えて核兵器、ミサイル及び生物化学兵器を開発して保有しなければならないと主張している。しかし、結論から言うと、北朝鮮の未来は核・経済並進路線のため、結局没落の道に落ちることにだろう。その理由は次の通りだ。
第1に、北朝鮮が正常な国家として発展していくためには必ず経済的な発展が欠かせない。しかし、現在の核・経済並進路線を固守する限り、決して経済的な発展を実現することはできない。並進路線の主な内容は、経済大国と軍事力の建設となっているが、経済大国の達成は現在、北朝鮮の能力だけでは絶対に不可能である。ほぼ機能を失っている産業インフラ、原始時代の共同体社会並みの経済・産業構造、通貨の枯渇などの問題は、外部からの支援がなければ到底経済的発展は不可能だというのが専門家の共通の意見だ。
核兵器の建設を最大の目標とし、今まで国連の制裁や国際的な要求にもかかわらず強行した4回目の核実験や弾道ミサイルの発射以降、北朝鮮に対する国際的制裁はより厳しくなっている。北朝鮮が経済的支援を受けることができる主な顧客である韓国や中国は言うまでもなく、これまで友好国だったスイス、ロシア、ベトナム、モンゴルなども、対北制裁措置に参加し、世界的に経済的制裁がさらに強力に履行されている。北朝鮮が核兵器の開発を最も重要な中核事業として求める限り、韓国の経済支援は受けられない。朴槿恵政権は、「核兵器を頭に載せている北朝鮮に経済的な支援はできない」という立場を見せている。このように、北朝鮮が核兵器の開発を絶対に諦めない核・経済並進路線を求めている限り、絶対に経済建設を成功させることはできない。
第2に、「北朝鮮の軍事力は、朝鮮半島統一の源」という先軍政治の主な内容を“天の声”のように信じ続けている核・経済並進路線は南北間交流の協力と信頼構築を妨げている最大の足かせとなっている。
韓国の歴代政権の対北朝鮮政策の大枠は、①南北間の交流協力の強化→②南北間の信頼構築→③南北間の平和体制の構築→④南北統一の達成という流れだった。しかし、北朝鮮は彼らの並進路線を求めるため、①限定された南北交流協力→②経済的実利の追求/韓国内の統一戦線の拡大→③軍事力の増強→④虚像の平和体制(pseudo peace regime)の構築→⑤北朝鮮中心の朝鮮半島統一などが彼らの一途な対韓国戦略だ。
金大中政権や盧武鉉政権当時、いわゆる太陽政策で条件なしの対北支援を行い、北朝鮮との和解協力の強化に向けた対北政策を進めていた。しかし、北朝鮮は韓国の各種経済的支援を徹底的に彼らの軍事力強化に悪用した。北朝鮮が保有している強い軍事力一つだけで、南北の統一も、南北間の深刻な国力の格差も解決するというのがその主な内容だ。こうした非合理的な考え方が4回目の核実験を強行させた。
この核実験によってこれまで忍耐強く譲り続けて、南北間の信頼が最も重要なことであると強調し、「朝鮮半島の信頼プロセス」という対北政策を求めてきた朴槿恵政権も北朝鮮の非理性的行動を正すため、強い態度で対応することに転換した。善意を持って行っていた支援とは裏腹に大韓民国の未来を脅かす恐ろしいブーメランとなっている核・経済並進路線を固守する北朝鮮に、韓国はこれ以上の経済的支援はできない。
第3に、「北朝鮮の軍事力は、対韓国・対外交渉力」という先軍政治の主な内容を盛り込んでいる北朝鮮の核・経済並進路線は国際的に北朝鮮を孤立させる最も大きな理由だ。現在、北朝鮮は国連制裁を受けているが、反省どころか「恒久的な国家戦略路線である核と経済の並進路線を通じた恒久的な核保有国宣言」を行い、火に油を注ぐ行為となっている。並進路線が国際的な交渉力として働くよりは国際的な激怒を誘発させる原因となっている。北朝鮮はまるで暴力団が所持している凶器1つを唯一の生存手段として、時にはその凶器で脅したり値切りしたりしながら彼らの命を維持しているように、彼らの軍事力を威嚇、あるいは交渉カード(bargaining chips)として巧妙に活用しながら存続している政権だ。
このような北朝鮮の行動は、国際社会でならず者政権(rogue state)というイメージをさらに深めている。4回目の核実験は、北朝鮮を国際舞台で一人ぼっちにさせ、交渉力の強化どころか 「世界における除去されるべき(eliminate)存在」というイメージをさらにエスカレートさせた。結局、核・経済並進路線に取りすがっている北朝鮮は世界でますます孤立することになっている。
意見する幹部は粛清
最後に、核と経済の並進路線に関する最も深刻な問題は、北内部で誰も金正恩に核・経済並進路線に対する問題点を指摘したり、改善する意見を述べることができないということだ。
現在、金正恩政権は、並進路線に関連する政策的問題点を指摘するか否定的な見解を表明する場合、それはまさに「死」あるいは「粛清」を意味する可能性があるためだ。このような金正恩政権の体制の特性が北朝鮮の正常な発展を妨げている最大の障害要素である。国の正常な発展のため、「改革」あるいは「開放」と関連する内容について提案したり、文句をつけた官僚及び専門家がすべて粛清されるのは、体制が持っている一つの伝統で、金日成時代、韓国の発展した様子を見て改革を提案した金達玄の粛清、中国の発展ぶりを見て改革路線を主張した張成沢の処刑などがその代表的例だ。
恒久的な国家戦略路線と宣言した北朝鮮の核・経済並進路線について、誰も否定的な見解を示すことはできず、改善に向けた意見が見向かれなければ、北朝鮮の没落を促すほかない。
結論的に北朝鮮は核・経済並進路線そのものを廃棄したり、中心的な内容である核兵器の開発を放棄しない限り、絶対に正常な国家として発展することはできない。東洋の名言には「刀好きは刀で滅びる」という言葉がある。核・経済並進路線に対する修正や廃棄を金正恩体制では誰も意見を提示をすることはできない。そのため、正常な国家への発展は期待しがたい。正常な国家として発展できない国は結局、歴史の中で消える運命になるほかない。(敬称略)