北朝鮮の核攻撃にやっと二段構え
迎撃ミサイル配備 韓国の決断(上)
米韓両国は北朝鮮による弾道ミサイル攻撃に備え地上配備型迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」を在韓米軍に配備すると正式に発表した。韓国の対北ミサイル防衛網はどこまで補強されるのか。ミサイル防衛をめぐり韓国は日本や中国など周辺国とどう向き合おうとしているのか。現地から報告する。(ソウル・上田勇実、写真も)
「米MD編入」批判避け後手に
今年1月、北朝鮮が4回目の核実験を強行した数日後、大統領国家安保諮問団の会議が招集された。この時、諮問団のメンバーから強く建議された事案が在韓米軍へのTHAADミサイル配備だった。
それまで配備に対する韓国政府の立場は「スリー・ノー(3NO)」と呼ばれ、「米国から要請はなく、協議もしておらず、従って決まったことは何もない」というもので一貫していたが、建議はその転換を促すものだった。
これを受け朴槿恵大統領は新年の対国民談話で「米国の戦略資産の追加展開」の必要性に触れ、THAAD配備へ強い意欲を示した。配備をめぐっては中国が、自国軍事施設が監視されるとして反発していたが、朴大統領は判断基準について「どこまでもわが国の安保と国益」と釘(くぎ)を刺した。
2月、米韓両国による実務協議がスタートしたが、4月の総選挙で与党が惨敗。配備に逆風が吹いた。しかし、北朝鮮の軍事的脅威は日増しに増大し、ついに先月、新型の中距離弾道ミサイル・ムスダンの試射で「一定の機能が示された」(中谷元防衛相)。
韓国国防研究院に長く在籍した金泰宇氏は「同型ミサイルで従来到達できないはずの高度1400㌔まで上がったことが確認され、北が強力なエンジンを確保したことが分かった。これがTHAADミサイル配備発表の決定的契機となったのは間違いない」と話す。
韓国が現有する対北ミサイル防衛網は盤石と言うには程遠い。韓国空軍の防空誘導弾司令部関係者によると、北朝鮮から飛来してくる恐れのある弾道ミサイルのうち短距離のスカッドBおよびC(射程300~500㌔)を迎撃できるのは韓国軍がドイツから導入した中古の地対空ミサイル・パトリオット2(PAC2)改良型と在韓米軍に配備されているパトリオット3(PAC3)のみだ。
前者は爆発で飛散する破片を標的に当てる拡散弾、後者は正面衝突させる直撃弾でいずれもソウル首都圏防衛を想定しているというが、上空20~30㌔の低層迎撃で「命中率は80%程度」(元韓国陸軍関係者)、破片の地上落下や放射能被害も避けられない。
この低層迎撃による一段構えを補強するのがTHAADミサイルだ。大気圏外も含む上空40~150㌔の高層迎撃が可能となり、これでようやく二段構えのミサイル防衛となる。
ただ、THAADが配備される南東部の星州(慶尚北道)から迎撃用レーダーがカバーできるのは最大200㌔。在韓米軍が集中する平沢(京畿道)は含まれるが、人口1000万のソウル市は大半がここから外れる。
上空40㌔未満の中層迎撃用にM-SAM、L-SAMという韓国独自のミサイルも開発中だが、実戦配備は2020年以降。「キル・チェーン」と呼ぶ先制打撃システムも目指すが、北朝鮮は昨年から潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の発射も繰り返しており、神出鬼没のミサイル発射拠点を事前に無力化するという話は絵空事ですらある。
韓国動乱(1950~53年)で北朝鮮と戦火を交え、数々の武力挑発にも遭いながら、なぜミサイル防衛が北の開発進捗(しんちょく)に対し後手に回っているのか。元韓国陸軍大佐の朴輝洛・国民大学政治大学院院長はこう指摘する。
「ミサイル防衛は多層迎撃が必須なのに、左派の盧武鉉政権時、米国のミサイル防衛(MD)に編入されるとして反米感情に結び付いてできなかった。韓国空軍トップの空軍総参謀長も戦闘機の操縦士出身が多く、防空将校たちの発言権は小さかった。北のミサイル攻撃に対し無防備に近かった時期があったことを国民は知らずに生活してきた」
韓国が自国のミサイル防衛をわざわざ「韓国型」と称しているのは「米MD編入」という批判をいまだに意識しているためだという。







