注目集めるマクロン氏、次期仏大統領選の行方
オランド氏再選厳しく
フランスは次期大統領選の第1回投票まで1年を切った。長期支持率低迷が続く左派のオランド仏大統領、中道右派ではサルコジ前仏大統領を筆頭に数人が意欲を見せている。一方、左派にこだわらないマクロン現仏経済相の動きも注目されているほか、支持拡大を続ける右派・国民戦線(FN)のマリーヌ・ルペン党首も意欲を見せている。(安部雅信)
ルペンFN党首も支持拡大
5日に公表された最新の仏世論調査によると、フランソワ・オランド大統領の支持率が過去最低に落ち込んでいる。調査会社、エラベが実施した調査では、フランスが直面する課題に対してオランド氏が効果的に対処していると回答したのは、16%にすぎなかった。
4年前の大統領就任以来、最大の課題は雇用創出により失業率を減らし、景気を回復することとされた。その意味では今春は、失業者数が減少し、第1四半期国内総生産(GDP)の伸びは予想を上回り、景気改善の兆しも見えてきた。それにもかかわらず、オランド氏への支持率は前月18%から、さらに下降した。
16%の支持率は、戦後歴代最悪であり、就任時の58%からの下降は深刻と言わざるを得ない。来年の次期大統領選で再選を目指すオランド氏にとっては逆風と言える。最近オランド氏は、公務員給与の引き上げ、教員数の増加、畜産業の支援計画、減税など国民の幅広い支持を得やすい政策を打ち出し、再選をにらんだ動きを見せている。
フランス政府のルフォル報道官は4日、2017年春の次期大統領選挙の実施日程を、第1回投票を4月23日、決選投票を5月7日に行うことを明らかにした。第1回投票まで1年を切った状況の中、各候補者の選挙戦は既に始まっているといえる。
最大野党の中道右派・共和党では、党内予備選を今年11月20日と27日に実施する予定で、ニコラ・サルコジ前大統領やアラン・ジュペ元仏首相など12人以上が参戦すると見られている。一方、FNのルペン党首は、既に2月8日に本選への立候補の意思表明を行っている。
共和党の最有力候補と目されるサルコジ氏は、過去の内相や大統領時代、治安対策で実績を残した経緯から、イスラム過激派のテロの脅威に苦しむフランスの状況では有利といえる。だが、フランスの検察当局が2月、2012年の大統領選の運動資金をめぐる疑惑でサルコジ氏に対する本格捜査を開始したことが影を落としている。
さらには、前回の大統領任期中の派手な暮らしぶりが、国民の反感を招く結果となったほか、行き過ぎた強権政治に疑問を投げ掛ける有権者は少なくない。一方、ジュペ元首相は共和党の前身でもある共和国連合時代から、保守勢力内で指導力を発揮した熟練政治家だが、どこまで支持を拡大できるか疑問の声もある。
一方、左派の社会党内では現在、経済・産業・デジタル相を務めるエマニュエル・マクロン氏が、大統領選に出馬するのではとの臆測が高まっている。同氏は、4月6日に新しい政治グループ、「進行」を結成し、「左派右派の最良の意思を結集し、左派でも右派でもない政治」を目指すと宣言した。
富裕層出身で、エリート校の国立行政学院(ENA)を優秀な成績で卒業したマクロン氏は現在、38歳。閣僚に迎えられる前は大手銀行の共同経営者となり、資産家となった社会党では過去に例を見ない出自を持つ。メディアへの露出度も高く、最近では労働法改正で批判も受けているが「マクロン旋風」は弱まっていない。
一方、日本でも昨年、著書『21世紀の資本』で話題を呼んだ経済学者のトマ・ピケティ氏らが、社会党、緑の党、共産党らを含めた左派の「大予備選」を呼び掛けている。ピケティ氏自身の出馬もうわさされているが、マクロン氏が大予備選に出馬するのか注目されている。
中道の左派右派の政党が、政権奪取に奔走する中、確実に支持基盤を拡大しているのが、FNだ。昨年12月に行われた仏全国一斉の地方議会議員選挙では、第2回投票で敗北したものの、第1回投票では、得票率で与党・社会党や最大野党・共和党を抜いて第1党となった。
FN創設者のジャンマリ・ルペン氏の娘で、現党首のマリーヌ・ルペン氏は、マスコミの調査で「大統領の座に最も近い人物」で、常に上位につけている。昨年、イラクやシリアから100万人を超える難民・移民が欧州に押し寄せたことや、イスラム過激派のテロが発生したことは、FNには追い風となっている。
FNは過去、単なる弱小のナショナリスト極右政党だったが、愛国主義と福祉政策、治安対策を前面に出すことで、今では政権の座を狙える国民政党の一つに脱皮している。そのため、過去のいかなる時代よりも幅広い層から支持される政党になっており、ルペン党首への支持も高まっている。
緊縮財政よりも景気浮揚策優先を掲げて政権に就いたオランド大統領の支持率が低迷する中、フランスの政治状況も流動的で、大統領選の予測は難しい状況だ。しかし、国民の多くが移民増加、治安悪化を懸念し、経済再生、生活の質向上を切望していることだけは確かといえる。