加速するロシアの「東方シフト」
欧米との関係悪化、日本にも矛先
ウクライナ危機を受けた欧米の対露経済制裁の影響が広がる中、ロシアのプーチン大統領が北京で開催された抗日戦勝70年記念行事に出席するなど、中国との関係強化「東方シフト」を加速しつつある。一方で、経済制裁に対する苛立ちの矛先は欧米だけでなく日本にも向けられ、日本の反対を無視し閣僚が相次いで北方領土を訪問するなど、強硬な姿勢をさらに強めつつある。(モスクワ支局)
政経で中露連携が拡大
ウクライナ危機を受け、欧米が対露経 済制裁に踏み切ってから1年半が経(た)つ。主要輸出品である原油などエネルギー価格下落で打撃を受けるロシア経済に、経済制裁が追い打ちをかけている。2015年第2四半期(4月から6月)の国内総生産(GDP)は4・6%減少。第1四半期のマイナス2・2%から一段と落ち込んだ。ロシア中銀は潜在成長率を1・5%とし、13年発表の2・0%~2・5%を下方修正した。
ルーブルの暴落によりインフレが加速しており、6月のインフレ率は15・3%。これは中銀の中期的目標の4倍近い。物価上昇が国民生活をじわじわと締め付けており、貧困率は14年に11%であったのに対し、16%に上昇した。
ウクライナ問題でロシアが譲歩すれば、制裁は解除されるだろうが、ロシアにそのつもりはない。経済の行き詰まりで国民に不満がたまりつつある中で、政府が国民の愛国心に訴え、その不満の矛先を外国に向けさせるのは常套(じょうとう)手段だろう。
特に、領土問題は愛国心に直結し易い。「クリミアをアメリカ人には渡さない。クリル(北方領土)を日本人には渡さない――」。われわれにとって実に迷惑な話だが、ロシアのSNSではこんなフレーズが飛び交う。日本は対露経済制裁に加わっている上に、ロシアとの間に領土問題を抱えている。矛先を向けるにはちょうどいい。
昨年9月にプーチン大統領側近のイワノフ大統領府長官が択捉島を訪問し以降、閣僚の北方領土訪問は鳴りを潜めていた。しかし、7月18日にスクボルツォワ保健相が色丹島を訪問したのを皮切りに、8月22日には日本政府の再三の反対を無視し、メドベージェフ首相が択捉島を訪問した。
メドベージェフ首相は北方領土の実効支配をアピールし、さらに、閣僚に対し、定期的に北方領土を訪問するよう指示。9月1日にはトカチョフ農相が択捉島、7日にはソコロフ運輸相が国後島と択捉島をそれぞれ訪問した。
一方で3日には、ロシアの対日交渉を担当するモルグロフ外務次官が「(領土問題を)協議するつもりはない。70年前に解決済み」と発言。ロシア外務省はこれを「公式見解」と確認した。
第二次世界大戦で日本が降伏文書に調印した9月2日には、サハリンのユジノサハリンスクで第二次大戦終結70周年を祝う軍事パレードが行われた。これは極東地域で初めて行われた大規模な軍事パレードであり、サハリンだけでなく沿海州地方などからも部隊が参加した。
悪化する一方の日露関係と対照的なのは、中露関係だ。プーチン大統領は3日、北京で行われた抗日戦勝70年記念軍事パレードを中国の習近平国家主席と隣同士で観閲し、「戦勝国」の結束をアピールした。
その後行われた首脳会談で両首脳は、「第2次大戦の歴史の改竄(かいざん)を許さない」という認識を改めて確認。日本に対する歴史認識で歩調を合わせることで中国との結束をさらに強化し、欧米基軸の世界秩序に対抗する構えだ。
経済面でも、ロシアの「東方シフト」は進んでいる。北京での中露首脳会談では、エネルギー協力など約30の合意文書に署名。さらに、ウラジオストクで3日から5日まで開催された「第1回東方経済フォーラム」にプーチン大統領が自ら出席し、外国投資の受け入れ環境整備を宣言した。
ノヴァク・エネルギー相は、ロシアのエネルギー分野への投資を拡大し、2020年までにアジア太平洋地域への原油輸出をロシア全体の30%にまで増加させると表明した。また、中国向けガスパイプライン「シーラ・シビーリ(シベリアの力)」の建設や、アムール州のボストチヌイ宇宙基地建設、極東の鉄道網整備などもアピールした。
同フォーラムには日中韓などアジア諸国を中心に約2500人の投資家らが参加し、合計で約1・3兆ルーブル(約2兆2000億円)に上る契約が締結された。