改憲視野に参院選挙制度の抜本的な改革を
「1票の格差」を是正する参院の選挙制度改革で、自民党は維新の党など4野党がまとめた「10増10減」案を受け入れた。これによって初めて都道府県の県境を越えた「鳥取・島根」と「徳島・高知」の2合区が実現する見通しだ。
同案で最大格差は最高裁から「違憲状態」とされた2013年参院選の4・77倍から約3倍へと縮まる。だが、あくまでも一時しのぎで、本来の参院の在り方を見据えた改革ではない。抜本改革への取り組みを怠ってはなるまい。
合区は地方創生に逆行
最高裁は13年参院選について「著しい不平等状態にあった」として違憲状態との判断を示し、速やかな見直しを求めていた。今回の是正案で来夏の参院選は違憲状態を回避できる。だが、人口格差が広がれば再び、見直しを求められる。
「投票価値の平等」は重要だ。だが、その一方で都道府県を越える合区は地方自治制度を軽んじ、都市と地方の格差を一層拡大させ、地方創生に逆行するとの見方もある。
また有権者数で投票価値の平等を判断することへの批判もある。例えばドイツでは選出議員は実際に投票した有権者の代表とする考え方に立ち、州選挙区の投票数に応じて開票後に定数配分を行っている。
わが国では地方の投票率が高く、都市部はおしなべて低いから、この制度を採用すれば1票の格差も変化する。
そもそも参院に投票価値平等の原則を厳格に適用することへの疑問がある。世界には英国型と米国型の二つの二院制が存在するが、いずれの参院(上院)も1票の格差は問題にされていないからだ。
例えば、英国は世襲貴族や僧侶からなる上院(貴族院)と選挙で議員が選ばれる下院(庶民院)の二院制だが、下院優位の原則があり、上院の議員は名誉職的存在だ。
一方、米国は連邦制に基づく二院制で、上院は人口に関わりなく各州から2名ずつ選出される。前回の中間選挙では人口最多のカリフォルニア州と最少のワイオミング州との1票の格差は66倍に上った。だが、上下両院で権限を明確に分けているため、批判の対象ではない。
これに対してわが国の二院制は特異だ。戦前は英国型だったが、戦後は立憲君主制でありながら華族制度を廃止し、なおかつ明治以来の二院制を継続しようとしたので、衆参いずれも1票の格差が問題視され、両院の権限も曖昧にされた。
歪な論議を回避せよ
それで同一政党が衆参で多数党であれば参院は衆院のコピーと化し、逆に衆参で多数党が異なれば「ねじれ国会」となって国政が停滞する。こうした現行憲法の問題点を避けて選挙制度改革だけを論じるのは「木を見て森を見ず」の歪(いびつ)な論議に陥りかねない。
今回の見直し案でも格差は3倍あり違憲との声があるが、選挙で選ばれることのない司法府は高度な政治的判断を委ねられていない。司法判断は慎重を期すべきだ。参院の抜本改革は憲法改正を視野に入れ、さまざまな角度から検討していきたい。
(7月14日付社説)