対独戦勝70周年記念式典 主要国首脳らが欠席
孤立するロシア
ロシアの首都モスクワ「赤の広場」で9日、対独戦勝70周年記念軍事パレードが過去最大規模で開催されたが、ウクライナ問題を受け、式典を観閲した首脳らは、旧共産圏を中心とした20カ国余りにとどまった。このような中、プーチン大統領が“主賓”として歓迎したのは中国の習近平国家主席だった。ロシアは急速に中国との関係を深めつつあるが、中国に主導権を奪われることを警戒する声も強まっている。(モスクワ支局)
中国との関係強化へ 主導権奪われる懸念も
ロシアで最も重要な祝日である対独戦勝記念日。第二次世界大戦(ロシアでは大祖国戦争と呼称)当時のソ連指導者であったスターリンに対す る評価は分かれるものの、ナチス・ドイツに対する勝利でソ連軍が果たした役割と、対独戦でソ連が2000万人を超える犠牲を出した歴史の重みは、誰も否定できない。
また、独ソ戦の勝利は、ロシアだけでなく旧ソ連諸国共通の記憶でもある。独立国家共同体(CIS)での求心力を高めるためにも、ロシアは対独戦勝記念式典を盛大に実施し、国威発揚の場として最大限に利用してきた。
特に今年は戦勝70周年という節目の年である。本来ならば第二次大戦当時の連合国に加え、敗戦国の独伊首脳、旧ソ連諸国の首脳を招き、これまで以上に盛大に実施するはずであった。
しかし、昨年のロシアによるクリミア併合や、ウクライナ東部でロシアが支援する親露派武装勢力と政府軍の紛争などを受け、戦勝記念日を取り巻く状況は大きく変わった。ウクライナや欧米主要国の首脳だけでなく、ロシアに最も近いと言える友好国ベラルーシのルカシェンコ大統領までが欠席を通知する中で、どの国の首脳が戦勝記念式典に参加するのかが、4月から5月初めにかけてのロシア国民の関心事だった。
「もちろんすべての関係国首脳に招待状を送付しており、すべての首脳が参加することを望んでいる。しかし、何らかの理由で首脳らが欠席するとも、戦勝記念式典の規模や意味合いに影響を与えることはない――」会見で式典出席者について質問されたロシアのペスコフ大統領報道官は、こう答えるしかなかった。
ドイツのメルケル首相は9日の式典は欠席したものの翌10日に訪露し、プーチン大統領と無名戦士の墓を訪れることでバランスを取った。それ以外の欧米各国首脳は軒並み欠席し、式典を観閲した首脳らは、旧共産圏を中心とした20カ国にとどまった。
10年前の対独戦勝60周年記念式典には、当時の小泉純一郎首相をはじめ、ブッシュ米大統領など56の国・地域・国際機関の首脳級が参加した。中央アジア諸国などからは政府首脳・要人に加え、対独戦を戦った多くの退役軍人が招待され、共に勝利を祝った。
その光景を覚えているプーチン大統領は、最新兵器を投入した過去最大規模の軍事パレードでロシアの力を誇示できたとしても、今回の記念式典で屈辱を感じずにはいられなかっただろう。だからこそ、中国の習近平国家主席の参加を何よりも喜び、“主賓”として歓迎したのだ。
「ロシアと中国は永遠の兄弟――」スターリンと毛沢東が友好関係にあった1949年に作られた歌のフレーズだ。今回のプーチン大統領と習主席の関係は、当時を彷彿(ほうふつ)させるものだった。プーチン大統領は8日の習主席との首脳会談で、歴史問題での中露共闘を明確にし、今年9月3日に行われる対日戦勝記念日に中国を訪問すると表明した。
さらにプーチン大統領は、「両国関係を新たな段階に引き上げ、ユーラシア大陸全体を共通の経済圏としよう」と表明。ロシアが極めて重要視する中央アジアにおいて、中国と歩調を合わせていく方針を示した。
9日の演説でもプーチン大統領は「世界を一極化させる試みを目の当たりにしている」と米国批判を展開した上で、「ナチズムと日本の軍国主義に苦しめ られ、戦った国々に感謝する」と述べ、改めて中国との共闘姿勢を明確にした。
経済面でもロシアは、モスクワとカザンを結ぶ高速鉄道建設で中国との協力を打ち出したほか、東シベリアの天然ガスを中国に運ぶパイプライン「シベリアの力」の建設を支持すると表明した。
ロシアが政治面でも経済面でも中国との協力関係を深める一方で、両国関係の主導権を中国に奪われるのでは、との懸念も広がっている。習主席が戦勝記念式典に参加しプーチン大統領との友好関係を強める一方で、中国はロシアのクリミア併合は承認しておらず、ウクライナに対し360億㌦の借款を行うなど、ウクライナ問題でロシアを支持しているわけではない。
英フィナンシャル・タイムズは「欧米による経済制裁でロシアが追いつめられていることを理解した上で、中国はロシアを安く手に入れようとしている」と分析している。