大統領選へ不動のヒラリー氏
知名度高く新鮮味欠く
十数人がしのぎ削る共和党
【ワシントン】ヒラリー氏がバンに乗り、毎日のように普通の米国人に会い、チポトレでブリトーを注文している。だが、防犯カメラの映像には、側近のヒューマ・アベディン氏のように、サングラスをかけ、7年間の外交政策の失敗の容疑を受けて追跡される逃亡者のように映っているのだろう。
ヒラリー・クリントン氏のマリー・アントワネットのようなツアーを見ると、ケーキを試食したり、普通の国民の真似(まね)をしたりする姿に、現実とは思えないような感じがする。だが、それも無理はない。オバマ氏に次いで、米国で最も有名な政治家であり、ローマ法王と同じくらい皆に知られている。ナポレオンやシェールのように、ファーストネームで一般には知られるほど有名だ。元王妃、上院議員、国務長官として四半世紀にわたって全米の注目を浴びてきた。このような候補はほかにいない。
報道はされるが、それは単なる報道にとどまらない。どれも見え透いていて、現実のように見えない。象徴的で、記号論のような選挙活動だ。
意図的に抽象化されたその姿は、すべてが完璧だが、どこかうそっぽく見える。これはヒラリー氏のせいではない。あらゆることが当たり前過ぎるのだ。何十年もの間、そのように位置付けられ、理解されてきた。だが、ヒラリー氏を取り巻き、動かしている巨大な政治機関によって、その姿は不自然に捻(ね)じ曲げられ、複雑化している。
ヒラリー氏はどうして頂上を目指すのだろうか。キャリアの階段を上るとするとそれしかないからだ。しかし、それもそれほど悪いことではない。ほぼすべての大統領候補に言えることだ。しかし、何か大きなことができるという確信を持って出馬する政治家はそれほど多くはない。これまで見た中で、ロナルド・レーガン氏くらいだ。そしてあえて言えばバラク・オバマ氏が挙げられるが、オバマ氏の場合はレーガン氏と違って、強烈なナルシスティックな自己実現への欲望と純粋な思想的確信が入り混じっている。
ヒラリー氏の問題は年齢だが、実際の年齢とか、政治家としての長い経歴を言っているのではない。ヒラリー氏はアイオワ州で、「ここに車で来る途中に80号線で会ったトラックドライバー」に共感を寄せるような話をしたが、その長い経歴を見れば、ここにきて急にトップに立とうという熱意が湧き上がってきたなどと考える人はいない。
新人というには成熟し過ぎている。もちろん、新鮮味を打ち出そうとするであろうし、陣営もそのような「メッセージ」を出そうとするだろう。だが、現代政治の中で使われる言葉の中でもかつてないほど陳腐なものとなるだろう。信念とか確信とか言われるかもしれないが、ブランドのようなマーケティング戦略にすぎない。
ヒラリー氏はいずれ政策を出してくる。アイオワ州ですでに、四つの優先課題を挙げた。その一つは、政治から不透明な巨額の資金を排除するというものだ。ヒラリー氏の陣営は2016年だけで25億㌦を調達することを目指し、クリントン基金は富裕層から資金を引き出すためにとてつもなく巧妙に作られた組織であることを考えれば、これはかなり重要だ。
ヒラリー氏は、普通の人々のヒーローになろうとしている。だが、夫とともに25年間も、貧者に優しそうな富裕層が集まるダボス会議に参加してきたヒラリー氏にとってそれは容易なことではない。アイオワにはバンで訪れた。ビジネスジェットでは見た目が良くないからだ。
だが、ヒラリー氏の毅然(きぜん)としたところは候補としては異色だ。焦点が定まっている。ヒラリー氏はヒラリー氏であり、誰もそのキャラクターを変えてほしいとも、変えられるとも思っていない。
そのため、有権者のヒラリー氏への見方も変わらない。2016年の選挙で変わるところがあるとすれば、相手方だ。共和党が誰を候補者に選出し、その候補者がどのように振る舞うかにすべて懸かっている。
ヒラリー氏は動かない標的だ。有権者には分かっている。そのヒラリー氏にも弱点がある。選挙運動が得意でないこと、揺らぐことのない知名度の問題、選出されるために最も重要になる資質に関しては、2008年の選挙でオバマ氏があけすけに言ったように「感じがいいとは言えない」。
しかし、強みもある。毅然としていて、教養も高く、精力的だ。異様なほどに巨額の資金を動かす巨大な組織を持ち、民主党からは一定の支持を得ている。
2016年選挙が今の段階で既に、現職が出馬しない大統領選としてはかつてない様相を呈しているのはそのためだ。一方では一人の候補者で確定し、一方では、支持率が20%以下の十数人もの候補者らがしのぎを削っている。
国民は、共和党の壮大な選挙戦へ心の準備が必要だ。その合間に、民主党の代わり映えのしない、象徴的な即位式の行進を見せられることになる。これを経て、国家の未来が決まる。わが国の建国の父らもそうしてきた。
(4月17日)






