固まる金正恩式支配 対中関係いずれ修復
2015 世界はどう動く 識者に聞く(12)
山梨学院大学教授 宮塚利雄氏

みやつか・としお 1947年秋田県生まれ。高崎経済大学卒後、韓国・檀国大学校大学院経済学科博士課程修了。92年、山梨学院大学商学部助教授、95年から同大学経営情報学部助教授、99年から同教授。主な著書に、『北朝鮮観光』、『北朝鮮の暮らし』、『北朝鮮・驚愕の教科書』(娘・寿美子との共著)など。
――3年目を迎えた金正恩体制をどうみるか。
“金正恩式”の支配体制が板についてきたと言える。最近行っている幹部人事を見ると、かつての張成沢(チャンソンテク)のようなナンバー2を置かなくなった。彼の体制は固まりつつあるとみていい。
問題は健康だ。メディアに露出する姿を見ると、足を引きずっていたり、不養生が明らかで、太り方が異常である。
工場や農場、軍の視察ではたばこをふかしながら報告を聞いている。朝鮮では目上や年長の前では礼儀としてたばこを吸わない。たばこを吸えるのは自分が最上位にいるということを見せつけるためのパフォーマンスだ。祖父の金日成を形だけ真似ているのだろう。周囲は保身のために金正恩を立てている。
夫人の行動も問題がある。金正恩の視察に同行している李雪柱を見ると、農場視察なのにミニスカートにハイヒールだ。真剣な視察とは見えず、違和感がある。
――中国との関係は冷えているのか。
統計上では中朝の取引は減っているのだろうが、例えば石油供給が途絶えたとは言えない。中国から供給されているのは黒竜江省の大慶油田からだが、ここの油は粘性が強いため、バルブを閉め切ったら固まってパイプラインは使えなくなる。量を減らしても供給は続けているはずだ。
中朝国境を挟んだ経済活動を完全に止めたら、困るのは北朝鮮ばかりではない。中国側も北との交易で成り立っており、省レベルでの取引もある。国境貿易いわゆる闇取引は続けられている。
――中国との取引で、北朝鮮は何で支払っているのか。何を供給しているのか。
吉林省図們には経済開発区がある。工業団地だ。ここには1000人以上の北朝鮮の女性労働者がいる。月給1700元(約3万2000円)ほどで、ほとんど搾取されてしまい、手元には200元しか残らない。しかし、日に3食食べられ、自由の空気を吸えるだけで、彼女たちは幸せなのだという。男性労働者もいる。出退勤では隊列を組んでいく。中国人は集団で歩かないから、すぐに分かるという。
2年ほど前には、「北朝鮮は奴隷を輸出している」と批判された。四十数カ国に約10万人、中国だけで12万人が“派遣”されている。職種は「平壌食堂」といわれる朝鮮料理レストランからIT技術者までいる。
鉄鉱石が採れる茂山鉱山は「朝鮮の宝」といわれる。だが電力不足で製鉄できずにいる。現在、鉄鉱石は中国へ売っている。運搬のために中国側は鉄道を敷き、駅を整備した。政治次元の対中関係はいずれ修復せざるを得ない。
――金正恩は新年の辞で韓国に対話を呼び掛けた。
韓国との対話は必要だと思っている。観光は元手不要でできる上に、平和外交展開をアピールできるから、金剛山観光を再開したがっている。
北は種と肥料を韓国に求めるだろう。植え付けを始める4月には必要となってくる。特に北朝鮮には良い種がない。開発改善を怠ったためだ。肥料も咸興肥料工場などがありながら、電力不足で稼働できず、また設備も老朽化している。
北朝鮮は貧しい国ではない。地下資源が豊富だ。きちんと国際社会に売れば、外貨は稼げるのだが、現在は中国に買い叩かれている。
南北首脳会談という話も韓国メディアで出てきているが、いま朴槿恵韓国大統領にその余裕はないだろう。
――ソニーピクチャーズの映画「ザ・インタビュー」に反発して、サイバー攻撃をしたというが。
(米朝)どちら側が攻撃したかは不明だ。金正恩はオバマ米大統領を「サル」と言っていたのに、自身のことを言われて反発した。
――対日関係の展望は。
拉致問題のため進展は望めない。北朝鮮は調査委員会を構成して日本人の調査をするふりを見せたが、「全員死亡している」という答えだ。日本側が納得できる回答ができていない。
(聞き手=編集委員・岩崎 哲)