米中間選の大統領拒絶現象
左寄りオバマ氏に怒り
クリントン氏の運動に影響
アメリカの大統領の任期は4年であるから、4年毎(夏季オリンピックが行われる年)に大統領選挙が行われるが、中間選挙はその中間、つまり大統領選挙の2年後に行われる選挙である。
アメリカでは上院議員が各州からそれぞれ2名ずつ選出されているが、上院議員の任期は6年であり、各選挙区から選出されている下院議員の任期は2年であるから、大統領選挙のときには同時に上院議員の約3分の1と下院議員の全員が改選される。が、中間選挙では大統領は選挙されないが、上院議員の約3分の1と下院議員全員の改選が行われる。
つまり、中間選挙の結果、大統領が代わるわけではなく、さらに2年後に大統領選とともに行われる下院選によって勝利した人が、その翌年の1月20日に就任するまで現大統領が引き続き留まっているわけであるから国民の興味と関心は薄い。その関心というのも、どの候補者が大統領から支持演説をしてもらうか、それに対して、同じ選挙区の野党候補者が誰に(多くの場合、著名な映画俳優など)支持演説をしてもらうかということにある。多くの有権者はこのような観点から中間選挙を観るわけである。
一方、大統領にしてみれば、与党の候補が多く当選すれば、自分の仕事ぶりが高く評価されている証拠だと考えて、与党の有力候補に対して積極的に応援演説をする。これがアメリカにおける中間選挙の特徴であり、アメリカ国民は中間選挙という言葉を聞けば、このような状況を念頭に描く。
ところが今回の中間選挙では、このような特徴ある状況が殆どなかった。その理由はオバマ大統領に指導力が無い上に、毎年大幅な赤字財政を実施して、政府を債務返済不能寸前にまで追い込んだという不評が一般的であるために、このような大統領に支持演説をしてもらったら、自分の選挙にプラスになるどころか、マイナスになる可能性の方が大きいと考えて、与党の民主党候補者が彼に支持演説を依頼しなかった。
このように今年の中間選挙は、オバマ大統領に人気が無いために、中間選挙の特徴さえ表さなかったと言えよう。今度の中間選挙で、多くの有識者が注目していたことは、下院では野党の共和党が多数を占めているが、上院で共和党が6名以上の議席を増やせば多数を占めることだ。ところが、7議席増やしたので、連邦議会は上下両院の議長だけでなく、各委員会の委員長をも共和党が独占することになり、民主党から出ているオバマ大統領としては、共和党の同意を得られないことは何も実施できないことになった。
これまでオバマ大統領は放漫財政を実施し、大統領の行き過ぎを押さえて均衡をとる役割を持った議会は、その役割を果たそうと努力してきたが、上院で与党の民主党が多数を占めていたためにその役割を十分果たすことができず、政府は債務返済不履行寸前状態にまでなった。多数の有権者の頭には、このことがあったのであろう。
また、選挙結果を見ると上院だけでなく、下院でも共和党が議席を増やすことになった。前の大統領選挙及び中間選挙では、アメリカの人口の約13%を占める黒人が組織的にオバマ氏を支持してきたが、今度の選挙では黒人でさえ組織的にオバマ氏を支持しなくなった。
いや、議員選挙だけでなく、今度の選挙では多くの州の知事選挙も同時に行われたが、7州で民主党の知事が敗北し、共和党の候補が当選した。つまり、この中間選挙の特徴と言えば、経済、財政政策について、何ら具体策を持たないだけでなく、外交政策についても指導力を持たないオバマ大統領に失望を超えて、彼に対する怒りさえ感じて、彼を拒否したことであったと言えよう。
アメリカでは過去数年間、高額所得者に対する税金を増やして、富の均衡を図ろうとする左寄りの政策を取ってきた民主党を支持する有権者が増える傾向にあった。この傾向を注意深く見守ってきたのが、民主党出身のクリントン元大統領夫人ヒラリー・クリントン氏である。彼女はエール大学の学生のころから、自分はアメリカで最初の女性大統領になるのだという野心を抱き続けてきた。そして、このような観点からアメリカの有権者の動向を見て心強い思いをしてきたが、今度の選挙では、このような動向が消滅した形になったために、彼女はその野心を実現する方策も変更せざるを得なくなった。
これまで彼女は民主党支持団体からの要請で講演する場合には、講演料を受け取っていたが、今後は減り行く民主党支持者を減らさないようにするために、民主党支持団体からの要請で講演する場合には、「講演料を頂きません」と言って、講演料よりも民主党支持団体を確保しておくことに重点を置くことにした。つまり、自分の野心を実現するためにこのような細かいところにまで気を遣っているわけである。
(なす・きよし)