「イスラム国」封じ込めを

チャールズ・クラウトハマー米コラムニスト チャールズ・クラウトハマー

聖戦主義者との長い戦いへ

イラク・スンニ派の協力必要

 【ワシントン】いつまでたっても煮え切らないオバマ大統領がようやく、「イスラム国」に対する効果的な戦略を出し始めた。これは、世論に押し出されたためで、首切り動画が公表されなければ、イラクでの嫌がらせ程度の空爆にとどまっていたことだろう。今後、世論が変わってもぶれることがなければ、戦略が成功する可能性はある。

 だがそれについてオバマ氏が公式に発表することはないだろう。この戦略では、イスラム国を破壊することはできない。「封じ込めプラス」という程度だ。イラクからイスラム国を追い出し、シリアに封じ込めることはできるが、空からの攻撃だけでイスラム国は破壊できない。イラクでは、地上に支援者がいるが、シリアにはそれがいない。

 イラクでの戦闘序列ははっきりしている。クルド人は戦うが、自治領内から出ることはない。空爆で、イスラム国から領土を取り戻し、多少はさらに進出できるだろう。だが、クルド治安部隊は遠征軍ではない。

 イラクのシーア派にもあまり期待はできない。米軍事顧問は、ごく少数の十分な訓練を受けたイラク特殊部隊と協力して、いくらか成果が上げられる可能性はある。しかし、腐敗し、士気が低い、シーア派支配の軍は当てにならない。

 協力が得られそうな重要な勢力はスンニ派部族だ。2007~08年の軍の増派中のように、再び、このスンニ派部族に働き掛けて、聖戦主義者らとの戦いで協力すべきだ。

 11年に関係を断っているため、容易ではないが、必要なことだ。いい兆候はある。スンニ派警備隊の創設だ。「アンバルの覚醒」運動の中で、米軍と協力して「イラクのアルカイダ(AQI)」を排除した「イラクの息子」が再び結集した。イスラム国をイラクから駆逐でき、支配を奪還できるのはこの勢力だけだ。

 シリアは違う。今の戦略では、この「がん」を排除することはできない。航空戦力が地上からの支援を受けられない。オバマ氏の「広範な同盟」に協力できるものは、そこにいないからだ。

 それがいつかできるようになるとすればトルコだ。しかし、エルドアン大統領は空爆への参加を拒否したばかりか、トルコの空軍基地の使用も認めなかった。

 「自由シリア軍」の残党はどうだろう。オバマ氏はようやく、訓練と武器の提供へ動き始めたが、遅い上に規模が小さい。米政府によると、訓練を受けた兵力を戦場に送ることができるようになるには1年かかる。それもわずか5000人だ。イスラム国はすでに、約3万人に達し、増加し続けている。

 空爆が無力だと言っているわけではない。勢力を削(そ)ぎ、統制を乱すことはできる。十分に戦略的に進められれば、定着し、拡大を続け、強固で、経済的に自立したイスラム国にダメージを与え、逃走し続けるしかないゲリラ集団に後戻りさせることはできる。

 それにはどのような戦略が必要だろう。ジョージ・ケナンの対ソ封じ込め戦略を小型化し、攻撃的にしたような戦略が必要だ。抑止し、封じ込め、最終的には組織内の対立から崩壊させる。歴史家デービッド・モタデル氏が指摘したように、過去2世紀の聖戦主義者体制は、原始主義、蛮行、残虐性、被支配者の間に生まれた強い敵意のために崩壊した。

 わずか8年前にアンバルの覚醒がAQIを駆逐したのも同じ構図だ。1880年代から90年代のスーダンでのマフディ国家は成功しなかった。モタデル氏が指摘するように、人口の半分が病気、飢餓、暴力で死亡し、オムドゥルマンでマフディ軍が英国によって無力化されるまでこれは続いた。

 現代の中東の枠組みの中で見ると、巻き返しと封じ込めを長期間併用するこの方法はイスラエルで取られてきた。異なる時間、場所、異なるイデオロギーを持つ組織による70年間にわたるテロ攻勢をそうして乗り越えてきた。最後の一撃で完全に終わらせることはできない。イスラエルの人々は、戦い、中断、また戦い、これを繰り返してきた。

 この終わることのない戦いをイスラエルの人々は、皮肉を込めて「芝刈り」と呼んだ。いつか最後の時が来るかもしれないが、自分の時代には来ないことを悟っている。現状を受け入れ、生き続けるしかないのだ。

 オバマ氏は、再開したこの戦いには何年もかかると率直に言った。これは正しい。短期間で終わるものではない。1898年のスーダンとは違う。

 現在の聖戦主義者らは世界に拡散している。宗教的、経済的組織は至る所に存在し、10億人以上の信徒を持つ世界宗教の中の奥深くに根付いている。私たちは今、長期的な、低強度の巻き返し・封じ込めの道を進んでいる。長く、困難で、地味で、苦難に満ちた道だ。

 「封じ込めプラス」だ。これが現在取り得る最良の戦略だ。オバマ氏は、それを遂行する断固とした決断を示さなければならない。

(9月25日)