日台関係を重視し育てよう
NPO法人修学院院長・アジア太平洋交流学会会長 久保田 信之
中国に怯えるのは国辱
掛け替えのない親日国台湾
日台関係は現在においても最も重要な課題であるという認識は、中国との統一を目論んでいると言われる馬英九政権においても共有している。例えば、対日戦略のブレーンで、中華民国総統府・国家安全会議諮問委員を務める楊永明台湾大学教授は「一般的に言って、日台間では相互に友好感情が存在するという基本認識がある。台湾はおそらく世界で最も親日的な社会であり、日本でも台湾に対する好感が広範に存在するのである」と認めているし、同じく中華民国総統府・国家安全会議諮問委員(閣僚級、亜東関係協会会長)の李嘉進氏は「日台は『感情の関係』だ。普通の外交関係は国益が基本だが、日台は特別。お互いの好感度が抜群に高い。戦前からの歴史が育てた深い感情が出発点となっている」と的確な分析を行っている。
日本重視の国民感情は、台湾における各種世論調査でも明らかで、日本との絆を重視する声が非常に大きい。2010年の世論調査では、「日本に親しみを感じる」が69%で、「親しみを感じない」の12%を大きく上回った。「最も好きな国」としても38%が日本を挙げ、2位のアメリカ(5%)、中国・大陸(2%)を大きく上回った。12年度の世論調査でも「日本に親しみを感じる」が62%で、「親しみを感じない」の13%を大きく上回り、「最も好きな国」として52%が日本を挙げ、2位のアメリカ(8%)、中国・大陸(5%)を大きく上回った。09年の台湾の学生の意識調査では、日本は「最も友好的な国」の第1位(44・4%)で、日本が首位になったのは3回目だった。
世界一親日家の多い国・台湾を、130万人近くの日本人が毎年訪問し、他国では味わえない安らぎを感じ、素晴らしい思い出を持って帰国している。
こうした両国民の間で醸し出されている「紛うことなき事実」が存在していながら、72年の「国交断絶」からの改善がなされず、政治的には他に例を見ない「遠い国」と位置づけたままなのだ。しかも単に疎遠なだけではない。中華人民共和国への卑屈なまでの配慮に呪縛されてか、人間であるならば当然なされるべき「隣人を敬う心」「互敬の心」を失ってしまってはいまいか。
現実を見つめる力を失った、あの民主党政権は、東北大災害の1周年記念行事において、台湾代表に対して「無礼この上ない対応」を行い、未だに反省も謝罪もしていない。「中華人民共和国の反応」に怯(おび)えたからに他ならず、台湾人の心を完全に無視した行為だったのだ。台湾蔑視ではない、あって欲しくないが、中国に怯えた結果、台湾の実態、台湾人の気持ちを誠実に、真剣に、我が事として受け止める「人間らしい心」をどこかに追いやってしまったからに他ならない。
あの民主党政権が犯した国辱的事件を、われわれ日本人全体が、自らの犯した過誤として厳しく問い続けなければならないと思う。
幸い、自民党政権が主催した2周年記念では、台湾の代表を他国の大使と同等に遇したことは、不十分ではあったが救いであった。
日本にとって掛け替えのない重要な国家が台湾であることを、政治家のみならず日本人のすべてが、しっかりと受け止めなければならないと力説したい。しかし、残念なことに日本国民の中には、現実の台湾を多面的に、素直に冷静に直視する努力を怠っている者がいることも事実なのだ。
その一例は、「日本語世代」に甘え過ぎて現在を担っている台湾人との関係を疎遠にしていることだ。第二に、台湾の近代化に貢献した多くの日本人を自画自賛するだけで、現代の台湾が直面している課題に必死に対峙(たいじ)している台湾人の苦悩を見失っていることだ。そして第三に、統一派、独立派のどちらかに強く加担して、いわゆる「政治的色眼鏡」をかけてしまい、台湾の多面的で流動的な実情を見失う、という過ちを犯しているのである。
去る6月24日から東京国立博物館で開催されている「台北國立故宮博物院-神品至宝-」展覧会に関しても、「中華人民共和国」の反応を忖度(そんたく)したからか、政治的イデオロギーの虜になったからか、「國立故宮博物院」の「國立」という2文字を削除したポスターを掲げたという事件も、典型的な一例だといえよう。
台湾政治の争点は、最早「独立路線」か「統一路線」か、という単純な対立軸では整理できない。現実の台湾は、中国大陸との経済交流を積極的に推進した上での「距離感の採り方」であり、「経済発展の恩恵の配分」という点に移っているのだ。台湾経済の大陸依存と格差の問題は、当面消えそうにないことから言えることは、今後しばらくは「台湾政治の争点」に大きな変化はないと見て差し支えない。
国民党政権は大陸中国との距離感のとり方を間違えたり、格差是正に成果をあげられなかったりすれば厳しい立場に追い込まれるし、民進党も台湾独立派というアイデンティティーでは生き残れない。独立急進派と穏健派とが党を割る日も近いかもしれない。李登輝氏が、昨年末の台北・高雄市長選挙で「民進党を見放した宣戦布告」こそ注目すべき現実なのだ。色眼鏡を外し「近視」でも「遠視」でもない、澄んだ素直な目で台湾の現実を直視する日本人でありたいものだ。
(くぼた・のぶゆき)