一方的に法を修正する米政府

チャールズ・クラウトハマー米コラムニスト チャールズ・クラウトハマー

共和党が法的手段検討

権限侵害に目を覚ます議会

 【ワシントン】最高裁は今週、温室効果ガス規制での過剰反応をめぐって環境保護局(EPA)に警告した。クリーンエア法は、年間250㌧、場合によっては100㌧を排出する汚染源を対象としている。この基準は、温室効果ガスに適用されると意味がない。幼稚園から食料品店まで数多くの組織が対象となり、話にならないからだ。そこでEPAは恣意的に、二酸化炭素排出の基準を10万㌧にした。

 最高裁は、これは「調整」などというものではなく、法律の書き換えだと判断した。米国憲法では、「官庁は、官庁の政策目標のために、一義的な法廷用語を書き換えることによって、法律を『調整』する権限を有していない」。

 ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、この規制に関する憲法上の教訓を歓迎すると書いた。クリーンエア法による新しい二酸化炭素規制を通じて、国家の権力発生への権限を連邦政府に移そうとしていた政府が、警告を受けて考えを変えると思い、それを願った人もいただろう。

 だが、その可能性はほぼゼロだ。政府は、憲法に関する教訓など学ばない。反対に遭うまで進み続けるだろうし、まだそれほど大きな反対には遭っていない。問題の根底にあるのは、1970年にできたクリーンエア法が温室効果ガスを想定したものではないというところにある。見れば分かることだが、規制値は、二酸化炭素に適用するには異常なほどに低い。その上、この法律が作成された時はまだ、70年代の地球温暖化騒動などなく、現在のように温暖化でパニックになったりもしていなかった。

 しかし、温室効果ガスをクリーンエア法の対象とした2007年の最高裁の判決を覆す用意のある判事は9人中2人だけで、問題の解決は連邦議会に懸かっている。この法的解釈と官僚組織の問題すべては、クリーンエア法は二酸化炭素排出には適用されない、という一言で一気に解決できる。

 その上で議会は、温室効果ガス規制を定めればいい。判事や官僚の恣意的で寛大な措置に任せる必要はない。それができないと、EPAがすぐに、一方的にキャップ・アンド・トレード制を定め、すべての州のすべての権限を握る政府の独裁者が誕生することになる。

 言うまでもなく、同じような計画が2010年に議会民主党にあったが、失敗した。わが国の大統領は、このような些事(さじ)にとらわれてはいない。大統領には制定する権限があるからだ。2009年2月24日の演説で、医療保険、教育、エネルギーの三つの分野で米国を改革すると議会に約束するという大胆な発表を行った。教育に関しては進んでいないが、エネルギー規制の権限を連邦政府に集中させようとしている。露骨な大統領令の行使によってだ。すでに、医療保険改革法で医療保険をワシントンに集中させることに成功している。

 エネルギーに関しては、望んでいた法律を通過させることに失敗し、大統領令で実行する。医療保険では、立法を通じて実行したが、医療保険法が成立すると恣意的にこれを修正し、医療保険法自体が白紙状態になり、政府が勝手に米国の医療を作り替えることが可能になった。

 例えば、雇用者の加入義務。医療保険法では2014年1月1日に発効するとなっていたが、できなかった。政府は、被用者を幾つかの階層に分け、開始日を変えるべきだと言いだしたが、これはこの法律と矛盾する。

 個人の保険についてはどうだろう。医療保険法に適合しない保険プランは解約しなければならないと同法は規定している。この点をめぐって騒動が起きるとオバマ氏は、州と保険会社に元のプランを使えるようにするよう求めた。これも、医療保険法の規定に明らかに抵触する。

 この混乱ぶりをみると、医療保険改革はまだまだ先のことのように思える。政府は、連邦の保険市場での契約者には補助金を出しているが、州の市場の契約者に対して医療保険法は、補助金を制限している。

 この問題は最高裁で取り上げられる。連邦保険市場補助金を撤廃する以外のことは考えられない。医療保険法を22カ所書き換えたことも取り上げられる可能性がある。

 オバマ帝国大統領の支配もそこまでだろう。

 これらの権限の侵害に対してずっと無関心だった議会が目を覚まそうとしている。下院共和党は、これらの権限の侵害全体に対抗するための法的な立場を明確にしようと新たな取り組みを準備している。ナンシー・ペロシ氏はこれを「見せ掛け」だと非難したが、これは同氏の党派性とビジョンの狭さを反映している。

 民主党がホワイトハウスを失うということなら、こんなことを言ってはいられないだろう。民主党が、急に火の付いたように騒ぎ出したメディアに追い立てられ、法的取り組みに懸念を表明し始めるのは間違いない。

 いずれ、これらすべては民主党のせいだと言わざるを得なくなる。

 神はわれらの味方だ。