【社説】北のICBM 日米韓の連携強化で対処せよ
北朝鮮が平壌の順安空港一帯から大陸間弾道ミサイル(ICBM)を発射し、ミサイルは北海道渡島半島西方150㌔の日本海の排他的経済水域(EEZ)内に落下した。
地域の平和と安定を揺るがす暴挙であり、断じて容認できない。日本は米国や韓国との連携を強化して対処すべきだ。
米全土を射程に収めるか
ミサイルは飛行距離が約1100㌔、最高高度は6000㌔以上に達し、飛翔時間は約71分で過去最長とみられる。北海道か本州に着弾した恐れもあり、危険極まりない挑発だ。
高角度のロフテッド軌道で発射されたが、通常の軌道であれば米全土を射程に収める可能性が高い。北朝鮮は2017年11月、ICBM「火星15」を発射し「国家核武力の完成」を宣言した。初の米朝首脳会談を控えた18年4月に「信頼醸成措置」として核実験とICBM試射停止を表明したが、今年1月に金正恩朝鮮労働党総書記が見直しの検討を指示。この1カ月の間に、ICBM関連の発射実験を繰り返してきた。
バイデン米政権は、北朝鮮に「前提条件なしで会う用意はできている」と対話を呼び掛けている。しかし、ウクライナを侵略するロシアや、覇権主義的な動きを強める中国に対処しなければならず、北朝鮮の相手をしている余裕はないのが実情だ。
非核化をめぐる米朝協議が停滞する中、北朝鮮は着々と核・ミサイル開発を進めている。今回のICBM発射の狙いの一つは、制裁や新型コロナウイルス対応で経済が苦境にある中、今年4月15日の故金日成主席生誕110年を前に軍事的成果を誇示し、体制の引き締めを図ることだろう。
今月の韓国大統領選では、保守系最大野党「国民の力」の尹錫悦前検事総長が勝利した。尹氏は当選直後、岸田文雄首相やバイデン氏と電話会談し、北朝鮮の核・ミサイル問題をめぐり緊密に連携していくことで一致した。ICBM発射のもう一つの狙いは、韓国での保守政権誕生を念頭に日米韓を牽制(けんせい)することだろう。
北朝鮮がミサイル発射を繰り返す背景には、国連安全保障理事会の機能不全もある。ロシアのウクライナ侵略では、安保理常任理事国であるロシアが拒否権を発動し、非難決議を採択できなかった。
北朝鮮の弾道ミサイル発射も安保理決議違反であり、特にICBM発射に対しては強力な追加制裁が求められる。だが、北朝鮮の「後ろ盾」である常任理事国の中国やロシアは制裁に反対の立場で、非難声明や追加制裁決議を採択できずにいる。北朝鮮も国連総会での対露非難決議に反対するなど、ロシアを擁護する姿勢を示している。
問われる尹氏の手腕
日米韓が北朝鮮の核・ミサイル問題に連携して対処するには、日韓関係の改善を急ぐ必要がある。尹氏は関係改善に前向きなようだが、国会では現与党「共に民主党」が圧倒的多数の議席を有するため、少数与党を余儀なくされる。反日的な文在寅政権を支えてきた共に民主党の協力をいかに引き出すか、尹氏の手腕が問われる。