国民投票法改正、改憲論議を本格化させよ
憲法改正の入り口となる国民投票法(憲法改正手続法)の改正案がまとまった。共産党と社民党を除く与野党7党は今国会に共同提出することで合意し、成立するのは確実だ。ただ改正案は課題を先送りしており、紛糾の種を残している。だが、入り口で立ち止まっているわけにはいかない。これを機に改憲論議を本格化させるべきだ。
重要な課題を先送り
国民投票法は投票年齢を18歳以上と定める一方、付則で選挙権年齢や成人年齢を18歳以上とする「必要な措置」を講ずるとしている。また公務員や教育者の地位利用による国民投票運動を禁止するものの罰則を設けず、付則では公務員の賛否の勧誘などを容認するよう公務員法の見直しを求めた。これらは誰が投票し、誰が投票運動を担えるかという国民投票法の中核を占める問題で、決してなおざりにできない。
これに対して改正案は、投票年齢について当面20歳以上とし、改正法施行4年後に自動的に18歳以上に引き下げるとしている。だが単純に18歳以上にすれば、高校3年生で投票権がある生徒とない生徒が混在し、教育現場に混乱をもたらしかねない。18歳になった直近の4月1日から投票権を認めるなど工夫が必要だ。
成人年齢に関する法律は公職選挙法に限らず、民法や少年法、飲酒、喫煙の禁止法のほか、銃刀法や競馬法(馬券購入)など200近くに上る。いずれも年齢引き下げによる影響が懸念され、法律ごとに熟考を要する。また成人には義務が伴うことも忘れてはならない。丁寧な論議が望まれる。
一方、改正案は公務員の政治活動を容認し、とりわけ公務員労組の組織的活動の是非については結論を先送りにしている。これは大いに疑問だ。公務員は「全体の奉仕者」(憲法15条)で、一部の党派的利益に奉仕させてはならない。
ましてや公務員労組の組織的活動は断じて認められない。一部の公務員労組は護憲を掲げて過激な政治運動を繰り広げており、国民投票の中立性を損ないかねないからだ。こうした法整備の段階で、すでに改憲、護憲派の攻防が始まっていると認識すべきだ。国民投票への環境整備は急がれるが、安易に妥協して肝心の改憲を妨げる愚は避けねばならない。
衆参の憲法審査会は本格的な改憲論議をスタートさせるべきだ。現行憲法は占領下に施行されて今年で67年。国内外の情勢は大きく変化したが、国際法と矛盾する規定を設けていたり、有事や大震災に備える緊急事態条項が存在しなかったりと、少なからず欠陥を抱える。
また衆参両院の役割分担が不透明なほか、権利に重きを置いて義務や「家族の価値」がないがしろにされているなど、さまざまな問題点が指摘されている。現行憲法のままでいいのか、国民的議論を巻き起こす必要がある。
国会は国民に改憲案示せ
改憲を発議できる唯一の機関である国会は、国民投票法の改正論議に汲々とせず、本題の憲法の中身に踏み込み、改憲案を国民に示すべきだ。
(4月7日付社説)