ロシアのクリミア併合で東西新冷戦の様相

オバマ政権、ロシア制裁エスカレート

 ウクライナでの反政府暴動に端を発したクリミア半島をめぐる米欧とロシアの対立がエスカレートしている。新冷戦時代の到来を懸念する声も一部にあり、東西対立の行方は世界政治、経済に大きな影響を及ぼしかねない。
(ワシントン・久保田秀明)

露、ウクライナ東部侵攻の構え崩さず

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22日、ウクライナ南部クリミア半島のベルベク空軍基地に突入するロシア軍装甲車と兵士(EPA=時事)

 ウクライナ南部のクリミア自治共和国で3月16日に住民投票が実施され、ウクライナからの独立とロシアへの編入に97%近い支持が集まった。その後、3月21日までの5日間に、クリミア議会による独立・ロシアへの編入決議、ロシアによるクリミア主権承認とロシア編入受諾、編入に関する条約署名、ロシア上院による条約批准、プーチン大統領による「クリミア連邦管区」創設の大統領令と事態は急進展し、ロシアのクリミア併合が完了した。

 米欧諸国はこの一連の動きに最初から国際法違反として反対し、ロシアへの経済制裁で対応している。具体的な反対の論拠は、ロシアの行動は武力で他国の領土や政治的独立を脅かすことを禁止した国連憲章第2条の侵害行為であるというものだ。これに対して、ロシアはクリミアの編入はあくまで地元住民の声に従ったもので、「人民の自決の原則」を定めた国連憲章第1条に基づく合法行為だと反論し、双方が歩み寄る兆しは見えていない。

 オバマ大統領は3月20日、ロシアの政策決定に影響力をもつロシア政府高官、企業家20人とロシア政府関係者の資産を管理している金融機関バンク・ロシアを対象に、米国内資産凍結、渡航禁止という追加制裁を新たに発表した。さらに、金融、エネルギー、資源、防衛などロシア経済の基幹部門を標的にした制裁を可能にする大統領令に署名した。ロシアの今後の出方次第では、ロシア経済を直撃する米国の経済制裁が繰り出されることになる。ロシア政府は20日、すぐに米国の大統領顧問など10人を対象にロシア入国禁止などを含む報復制裁で対抗。米露の対立がエスカレートしている。

 オバマ大統領は追加制裁について、「制裁はロシア経済に打撃を与えるだけでなく、世界経済にとっても阻害要因になる恐れがある」ことを認めた。エネルギー関連品目はロシアの国家収入、輸出の50%を占めている。半面、欧州は天然ガスの30%以上をロシアに依存しており、制裁でロシアのエネルギー産業が打撃を受ければ、無事では済まされない。にもかかわらず、米欧とロシアとの対立は容易に解消されそうにない。ロシアではプーチン大統領への支持率がクリミア危機で70%以上に急上昇し、その強硬姿勢の追い風になっている。米国内ではオバマ大統領のこれまでの対露外交を「弱腰外交」とする批判が共和党を中心に根強く、大統領もロシアには強硬に出ざるを得ない。

 クリミアでは親露派の自警団がウクライナ海軍本部などを襲って占拠しており、ロシアのクリミア実効支配が着々と進められている。ロシア軍はロシア系住民の多いウクライナ東部や南部の国境付近に数千人の軍隊を展開し、軍事的な威嚇を継続しており、ロシアの軍事介入がウクライナ東部その他にも拡大するのではないかという米欧の懸念も解消されていない。オバマ大統領は20日、「ロシアがウクライナ南部、東部への侵略につながりうる軍の配置をしていることに重大な懸念を抱いている」と述べた。

 米欧諸国はいま、1991年ソ連崩壊後に、ロシアを西側陣営との協力関係に導こうとしてきた路線の見直しを迫られている。ソ連崩壊、冷戦終結後に、米国を軸とした北大西洋条約機構(NATO)、欧州連合(EU)は東欧諸国、バルト3国などの旧ソ連諸国に手を差し伸べ、それらの国のNATO、EU加入を受け入れてきた。米欧諸国はロシアに対しても、ロシアの改革を逆戻りできないものにするために、西側のG7体制にロシアを組み込もうとした。ロシアもG7との関係を深め、1998年バーミンガム・サミット以降、G7にロシアが加わってG8体制になった。

 しかしソ連崩壊を「最大の悲劇」と呼び、エネルギー資源を背景に強いロシアの復活を目指すプーチン大統領の登場で、G8内のロシアと他の7カ国との不協和音が大きくなってきている。G8は6月にロシアを議長国としてソチ・サミットを開催予定だったが、オバマ政権はG8サミットへの準備を凍結した。G7は24日、ハーグの首脳会議で、ロシアのG8への参加停止を決めた。G7がロシアとは一線を画する冷戦時代のような状況に逆戻りする方向に進んでいる。