イエメンで攻勢強めるフーシ派 米大使館職員拘束

米国によるイエメン武装組織フーシ派の「外国テロ組織」指定に抗議する人々=2月4日、サヌア(AFP時事)

 内戦が続くイエメンの首都サヌアにある米大使館で、反政府武装組織フーシ派が侵入し、大使館職員が拘束される事件が起きた。バイデン米政権のレンダーキング・イエメン担当特使が8日にイエメンの暫定首都アデンを初めて訪問してから数日後のことだった。フーシ派は、サヌアでの政治的地位を強化しようとしている。(エルサレム・森田貴裕)

支配力のアピール狙いか
マーリブ州奪取へ大規模進攻

 米国務省は11日、懸命な努力によって大使館職員の大多数は解放されたが、一部がまだ拘束されていると発表。フーシ派に対し、職員の即時解放と、押収されたすべての財産の返還を求めた。

 米政府は、イエメン内戦が始まった2015年にサヌアの米大使館業務をサウジアラビアの首都リヤドに移管。閉鎖された米大使館には、現地警備職員が引き続き勤務していた。

 レンダーキング氏は事件前の8日、イエメン南部の港湾都市アデンで、イエメン暫定政府のサイード首相、ムバラク外相、ラムラス知事らと会談し、「今こそ、すべてのイエメン人がこの内戦を終わらせ、経済の復活や汚職対策など、人々の苦しみを軽減するための大胆な改革を実施するときだ」と語った。

 トランプ前米政権は、イランを封じ込めるため、サウジへの軍事支援を強化、フーシ派を「テロ組織」に指定した。しかし、バイデン米政権は政策を転換し、イエメンでのサウジ主導の軍事作戦への支援を中止すると表明。フーシ派のテロ指定も解除した。

 中東情勢に詳しい政治アナリストで、英ロンドンに本拠を置く地政学的リスクのコンサルティング会社「インターナショナル・インタレスト」の責任者であるサミ・ハムディ氏によると、トルコ国営放送(TRT)のニュースサイトで、アデンの米大使館を襲撃したフーシ派の最近の動きは、産油地帯にあるマーリブ州の奪取に向けた大規模進攻に関係しているという。「フーシ派はマーリブ州に投入する戦闘員を増員しているため、首都サヌアなどフーシ派の支配地域が手薄になっている可能性がある。米大使館のイエメン人警備員を拘束することによって、米国を挑発することなくフーシ派には支配力があるというメッセージを送ることができる」と述べた。

 ハムディ氏によれば、フーシ派とサウジとの間でここ最近、非公式の交渉が複数回行われた。フーシ派はイエメン内戦で荒廃した国の平和を確保するための幾つかの条件に対して不満を示したという。

 また、米大使館の職員拘束事件の2日前には、国連安全保障理事会の常任理事国5カ国(中国、フランス、ロシア、英国、米国)の代表5人がイエメン駐在のサウジ大使と会談を行った。代表らは、政治的解決の必要性を主張する一方で、イエメン暫定政府への支持を示した。米大使館の声明によると、代表らは、フーシ派のサウジに対する国境を越えた攻撃を非難し、暫定政権の拠点マーリブへの攻撃停止を求めたという。

 米上下両院外交委員会の主要委員ら4人が12日、フーシ派がサヌアの米大使館に侵入し、職員を人質に取っていることを非難する共同声明を発表した。しかし、事件に関して、これまで米政府から声明などは出されておらず、ハムディ氏は、米国はフーシ派が達成しようとしていることに必ずしも敵対しているわけではないようだと指摘した。

 また、イランが支援するフーシ派は、イランが望んでいるからではなく、歴史的および宗教的理由でイエメンを統治する権利があるという長年の信念によって、サウジが支援するイエメン暫定政府と対立していると主張している。

 イエメンの専門家であるサヌア大学のナジャト・サイム・カリル元教授は、TRTニュースサイトで、「イエメン全土を掌握できる立場にあると信じているフーシ派は、米国と新しい関係を始めたいという考えを持っている」と述べた。

 フーシ派が、弾道ミサイルなどでのサウジへの攻撃を停止する可能性はある。ただ、イエメン暫定政府最後の拠点であるマーリブの奪取に向けて9月から攻勢を強めており、アフガンのイスラム主義組織タリバン同様、政権を掌握するに至るまでフーシ派の進攻が続く可能性がある。