デルタ株の感染者急増 イスラエル
世界最速ペースで新型コロナウイルスのワクチン接種を進めて感染拡大を抑え込んだとみられたイスラエルでは、感染力が強いデルタ株(インド型変異株)の流入により再び感染者が急増している。最近の1日当たりの新規感染者数の平均が1000人以上となり、重症者は100人を超えた。(エルサレム・森田貴裕)
ワクチン予防効果39%に
解決策は水際対策の改善
世界的な新型コロナの感染拡大に伴い、3度のロックダウン(都市封鎖)を経験したイスラエルは、昨年末から市民へのワクチン接種をハイペースで進めた。感染状況が大幅に改善した6月15日には市民の行動規制が解除され、1日当たりの新規感染者は一時1桁まで減っていた。ところが、国外から帰国した旅行者に起因するとされるデルタ株の感染者が急増した。いったんは解除されていた屋内でのマスク着用義務は6月25日、わずか10日で復活を余儀なくされた。7月には新規感染者数が3月以来、4カ月ぶりに1000人を超えた。
人口930万人のイスラエルでは、約530万人が米製薬大手ファイザー製ワクチンの2回目の接種を終えている。
イスラエルの新型コロナに関する諮問委員会責任者であるラン・バリサー氏によると、デルタ株に感染した成人の半数以上がファイザー製ワクチンの2回の接種を終えているという。また、新規感染者の約9割がデルタ株で、感染者の約半数がワクチン接種を受けていない16歳未満の子供だという。
イスラエル保健省は7月22日、ファイザー製ワクチンについて、デルタ株に対する感染予防効果が39%に低下したと発表した。重症化に対する予防効果は91%で、これまでと同水準だとした。
5月の保健省の報告では、ファイザー製ワクチン2回の接種による感染予防効果、重症化に対する予防効果ともに95%としていた。7月5日の報告では、ファイザー製のワクチンの感染予防効果が6月以降、64%に低下し、重症化に対する予防効果は93%と発表していた。
イスラエルのワイツマン科学研究所の免疫学の専門家であるロネン・アロン教授は、米国の中東ニュースサイト「メディアライン」で、「このワクチンは、感染を予防するためではなく、重症化を防ぐために開発されたと思われる。感染に関し人々がしなければならないことは社会的距離を保つことだ」と述べ、ワクチン接種と行動制限を組み合わせることが重要だと強調した。アロン教授は、空港での水際対策を改善することが実行可能な唯一の解決策だと語る。空港では現在、イスラエル人帰国者のほとんどはその場でウイルス検査を受け、陰性になった場合は解放される。しかし、帰路の飛行機内で感染する可能性が高く、直後の検査では意味がないと指摘。全員に対し少なくとも4日間の隔離措置を取るべきだと主張している。
ベネット首相は22日、国民へ向けたテレビ演説で「医学的理由がない12歳以上のすべての市民はワクチン接種を受けなければならない」と述べ、未接種者に対して接種に応じるよう求めた。また、「100万人のイスラエル人がワクチン接種を受けなければ、他の800万人の市民をも危険にさらすことになる」と述べ、4度目のロックダウンの可能性があると警告した。ベネット氏は、国民がワクチン接種を受け、屋内ではマスクを着用し、高齢者が孫と会う時は屋外でもマスクを着用するなど二重の注意を払えば、デルタ株を克服することが可能だと主張する。
29日からレストランやスポーツジムなどに入る際には、いったん廃止したワクチン接種証明書「グリーンパス」が必要となる。また、30日からは感染者急増のため英国、ジョージアの他、イスラエル人にとって最も人気の高い観光地であるキプロスやトルコへの渡航が禁止される。ロシアやインドなどへの渡航はすでに禁止されている。
イスラエルは、世界で初めて免疫力の低い成人を対象に3回目のワクチン接種を始めたが、このまま感染拡大が続けば、ロックダウンになる可能性は高く、人々は再び規制だらけの息苦しい生活を強いられることになる。