英国が初のEU加盟国離脱、強気の英国 複雑なEU

依存度強く双方にダメージ

 今年のクリスマスイブは、新型コロナウイルスの感染拡大の試練の中、欧州連合(EU)初となる加盟国・英国の離脱手続きに終止符を打つ日でもあった。ジョンソン英首相は、大きなクリスマスプレゼントだと国民に自画自賛し、EU側は統合の基本原則を守り通商交渉で合意したものの心境は複雑だ。
(パリ・安倍雅信)

主権回復喜ぶも国民への納得難題
公正な競争維持もドミノ離脱憂慮

 英国とEUが離脱協定法を正式に承認したのは、今年1月末、1月31日に離脱し12月31日までの移行期間に入った。欧州議会が離脱協定法を承認した1月29日、欧州議会の英離脱問題対策グループの座長を務めるフェルホフスタット議員は、離脱を「EUの失敗だ」とツイートした。

欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長とのテレビ会議で、貿易交渉で合意したジョンソン英首相=24日、ロンドン(英首相官邸提供・時事)

欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長とのテレビ会議で、貿易交渉で合意したジョンソン英首相=24日、ロンドン(英首相官邸提供・時事)

 離脱協定法を成立させるまでの道のりは長く、2016年、英国が離脱の是非を問うた国民投票から3年半が経過していた。EUにとっては、英国は1973年にEUの前身、欧州共同体(EC)に加盟した古参のメンバー国だ。前例のない初めての加盟国離脱だが、離脱を目指す英国側も国内の残留支持派の抵抗で迷走した。

 欧州側は離脱国が出ることで、拡大と深化を遂げてきたプロセスを一転させ、近年台頭する反EUのポピュリズム政党によって、離脱のドミノ現象が起きることを恐れた。イラク戦争やリーマン・ショック、ギリシャの財政危機、移民大量流入で安全保障、外交、経済、移民政策でEUは一致した行動の困難に直面した。

 加盟国の間ではブリュッセルのEU官僚たちが一方的に政策を押し付けることへの不満が噴出し、EU政策も単一通貨ユーロも国益に沿わないという批判が起きていた。その矢先の英国の国民投票での離脱決定は、EUには過去にない厳しい試練だった。

 英国には社会民主主義の尾を引きずる仏独主導のEUに不信感があった。そのEUは、ソ連に支配されていた旧中東欧を迎え入れたが、EUの2流国とさげすまれる旧中東欧諸国の不満がくすぶっている。コロナ禍からの復興基金問題でEU法の順守が求められ、ハンガリーやポーランドが最後まで抵抗した。

 自由市場主義の英国は、何かと国家が管理したがる大陸欧州に比べ、小さな政府を追求してきた。民意の尊重が絶対的な英国が、EUの政策に葛藤し続けてきたのも事実だ。とはいえ英国とEUの経済的依存度は極めて高い。英国の離脱は双方にダメージを与える。

 2021年1月1日、英国はEUを完全離脱する初の国になる。離脱派の中心にいた英国のゴーブ内閣担当相は、通商交渉が合意に至ったことを受け、26日付の保守系英日刊紙ザ・タイムズに寄稿し、「EU通商協定により、英国とEUは“特別な関係”を享受し、国民投票以来の『醜い』政治に終止符を打つことができる」と書いた。

 英国にとって、EU離脱は欧州との新たな関係構築だけでなく、分断した英国民間の和解の努力を始める時でもある。そのためには離脱を主導したジョンソン政権が、離脱が正しかったことを国民に納得させる必要がある。

 今回の通商交渉の合意で、新たに貿易に関税が導入されることは回避されたが、1月1日から、企業と個人は新しい通関手続きと国境手続きに適応する必要がある。協定はその移行で発生する混乱を最小限にする努力をしたが、それでも混乱は避けられないだろう。政治家たちはITシステムの導入など新しい貿易インフラの準備に取り組む必要がある。

 通商交渉の最終盤、英EU双方の葛藤は頂点に達した。EUにとっては単一市場の原則である人と物とサービスの自由な移動を保障し、公平で統一された規制を守るための戦いだった。英国は主権回復を最優先にEUとの貿易慣習のメリットを生かすべく、EUに規制の壁を下げるよう迫り、EUに対して最後まで譲歩の気配を見せなかった。

 「素晴らしい合意」とジョンソン首相は自画自賛したが、交渉担当外交官らがブリュッセルで不眠不休の末合意した後、コロナ感染対策の規則で保ってきた1・5メートルの距離があったとはいえ、握手も祝杯もなく、退席もせずに互いを見詰め合っていたことが何を意味するかが今後問われそうだ。