EUvs 英、対面交渉 厳しい局面

 英国の欧州連合(EU)離脱移行期間終了が今月末に迫る中、いまだ続く貿易交渉は妥結の糸口を見いだせていない。新たな協定なき正式離脱が双方にもたらす衝撃と混乱は大きく、危機感が高まっている。最大の漁業問題を含め、最後の調整がされているが、EU側は非常事態への本格的準備も始めている。
(パリ・安倍雅信)

漁業権問題で妥協あるのか
年内で離脱移行期間が終了

 EUのバルニエ首席交渉官が11月27日に一部加盟国の漁業担当相と会談した。貿易交渉の最大の懸念の一つで難航している漁業問題を打開するため、意見交換を行うためだった。

英国に乗り込んだ欧州連合(EU)のバルニエ首席交渉官=10月28日、ロンドン(AFP時事)

英国に乗り込んだ欧州連合(EU)のバルニエ首席交渉官=10月28日、ロンドン(AFP時事)

 EUは一貫して英海域での漁業権の現状維持を主張し、これに対して英国は、離脱に伴い手にする独自の漁業政策で「主権」を強調している。直接関係のあるフランスやスペインなどのEU加盟国は、英海域での漁業権を認める協議は年次交渉で状況を見ながら決定すべきとしているが、英国はこれを認めていない。

 英EUの複数のメディアは、英離脱の移行期間終了の12月末以降も、EUに一定の漁業権を認める期間を数年間与える案が出ているが、英国側は難色を示していると伝えている。ジョンソン英首相は、取引の可能性のボールはEUに投げられていると主張、首相は27日、記者団に対し「彼らがやりたいのであれば、やるべきことがある」と言いながらも双方の間に「実質的かつ重要な違い」が残っていると付け加えた。

 同日、バルニエ氏は「(交渉は)遅れているが、ディールはまだ可能であり、そうでないことが明らかになるまで話し続ける」とツイートした。同氏はまた、英国側が懸念している英国海域での乱獲、企業への助成制度など、いかなる取引も「英国の主権を完全に尊重する」必要があると付け加え、英国がこだわる主権に理解を示した。

 ブリュッセルにいる英公共放送BBCの欧州担当、カティヤ・アドラー氏は「英国が妥協する姿勢を示していないとすれば、EUから土壇場での譲歩をさらに引き出すことが期待されているからであり、漁業権に関しては成果を得る可能性がある」と指摘している。

 本来、合意なしの離脱も辞さない姿勢で昨年秋に首相に就任したジョンソン首相は、最近のインタビューでも「貿易協定は英国・EU双方に利益をもたらすが、それなしでも英国は「力強く繁栄する」と語り、強気の姿勢を変えていない。デービッド・フロスト英離脱交渉官は「可能な着地点はある」として、バルニエ氏との協議に臨んでいる。

 フランスのメディアは、欧州委員会が念頭に置いているEU側の合意内容の精査と意思決定に膨大な時間がかかることを指し、「英国は理解していないようだ」と非難している。欧州議会関係者も強い懸念を伝えている。

 EUでは、新型コロナ流行による経済へのダメージから立ち直るための「復興基金」をめぐり、ハンガリーとポーランドが復興基金の資金分配に「法の支配」の順守を条件とする方針に強く反発し、予定通りの基金稼働が危ぶまれている。英国との貿易協議でも全ての加盟国での批准が必要で、難航すれば年末に時間切れとなる。

 今年1月にEUを離脱した英国は年末で移行期間を終了する。年末までは英国は欧州単一市場や関税同盟に暫定的にとどまっているが、来年1月からは離脱合意に基づく新たな貿易協定がなければ、世界貿易機関(WTO)規則に従い関税が復活し、手続きは煩雑化し、流通システムや企業活動に深刻なダメージを与えることになる。

 英国はEUのエネルギー市場にアクセスできず、警察と司法の協力について合意もないため、安全保障上脆弱(ぜいじゃく)になる可能性も指摘されている。アドラー氏は「移行期間終了後に主権を取り戻した英国が、EUの社会雇用政策や環境基準で、どのように厳密に従うかは曖昧なままだ」と指摘する。

 EU側は、国境検疫や通関手続きを含む流通の大混乱を避けるための非常事態に備えるようすでに欧州委員会は体制を準備しており、その検討も交渉と並行して行われていると伝えられている。