世界の海で藻場造成を

人工礁開発

(株)朝日テック社長 池田修氏に聞く

 人工礁「ハイブリッド型リーフボール」の開発に成功した造船関連株式会社・朝日テックの池田修社長(70)は、リーフボールを使った藻場再生の取り組みを進めている。沿岸海域で海藻類が大規模に消失する「磯焼け」という現象を解消し、漁場の再生や海洋問題の改善を目指す池田社長に話を聞いた。(聞き手=石井孝秀)

鉄分不足で磯焼けに
食物連鎖維持し魚介類増やす

リーフボール事業を始めることになった経緯は。

朝日テック社長 池田修氏

 いけだ・おさむ 1949年、長崎市生まれ。73年、立命館大学経営学部卒業。75年、日広貿商株式会社入社。76年、Nikko America NY 首席駐在員として渡米。86年、Environment Technology LLC USA設立。95年、国連本部世界平和の鐘の会理事長就任。2013年帰国、(株)朝日テック代表取締役就任。

 もともと私は米国で商社務めをしており、独立後に自然エネルギーなどの事業を展開していた。

 その中で米国リーフボール財団の会長と知り合い、フロリダで実際にリーフボールを見て面白いと思った。コロンビアやインドネシアなど、世界75カ国でサンゴの保全活動用に利用されている。これを使って、故郷の海に魚を呼び戻すための藻場を再生できないかと考えた。それが長崎にリーフボールを持って帰った理由だ。

 造船技術を使って1個200㌔のリーフボールを4基積み上げ海底に沈め、魚介類の集まる漁礁とする。米国でも藻場造成のための技術は持っていないので、これを共有すればサンゴだけでなく、世界中で藻場造成の取り組みができる。

 2050年には世界人口は98億人になるとされている。そうなれば、食料供給が地上だけだと明らかに足りない。藻を増やすことで海洋生物の産卵場所や生息場所、食物連鎖などを維持し、魚介類を増やしていかなければいけない。また、地球上の3割の二酸化炭素(CO2)が藻などの海洋生物に吸収されているという計算もある。

リーフボールの特筆すべき特徴は。

 通常のリーフボールは高さ約1・2㍍、重さ約2㌧の大きさ。コンクリート製だが、空洞になっているためにセメントの量は非常に少なく、経済的なコストだ。テトラポットなどのコンクリートブロックと比べると軽く、大型重機を必要としないため輸送も便利。しかも藻場造成に理想的な浅瀬での設置が容易というメリットもある。

 基本的にコンクリートは腐食防止のためにアルカリ性が高く、通常のやり方では酸性・アルカリ性の指標である水素イオン指数(pH)が13までになる。pHが7だと中和している状態で、海藻類はpHが8を超えると生きられず、死ななくても成長が止まったり新しい胞子ができなくなってしまう。

 リーフボールもコンクリートを使用した構造物だが、強度を確保しつつ混和剤によって中性になるよう作られている。海底での耐用年数の予想寿命は500年と考えられている。

 さらに海底に沈めておくと波の勢いを抑えられるため、景観を損なうことなく海岸を守る潜堤(海面下に設けられた防波堤)としての役割も期待できる。砂浜の浸食対策にも日本では利用できるだろう。

 これらの特徴を持つリーフボールは今年の5月、海洋環境分野で持続可能性のノーベル賞と言われる「カターバ賞」を受賞。受賞理由は、海水と中和し容易に人工礁が製造できる点や砂場の海底でも安定して固定できる点が評価された。

朝日テックでは、このリーフボールをどのように改良したのか。

海底に設置され、藻が生い茂ったリーフボール=5月、長崎市高浜町(朝日テック提供)

海底に設置され、藻が生い茂ったリーフボール=5月、長崎市高浜町(朝日テック提供)

 アメリカのリーフボール自体はサンゴ用だ。これを藻場再生のために使うと伝えて、米国リーフボール財団と契約を結んだ。

 「磯焼け」という言葉のイメージだと、温暖化による海水温度の上昇が原因のように感じられる。確かに海水温度が高いと藻は苦しむのだが、研究によると海水に含まれる鉄分不足が大きな原因だった。そこで藻類の生育を促す鉄分を含んだ塗布剤や長期にわたり栄養を溶出させる海洋施肥材とを組み合わせた、新しいハイブリッド型のリーフボールを開発した。表面は海藻胞子などが付着しやすくするため、でこぼこの状態に加工されている。

 昨年から今年にかけて2度の実証実験を行った。昨年11月16日から今年3月15日にかけて、内海となる長崎県西海市西彼町漁協沿岸の水深3㍍に、小さめのリーフボール(高さ61㌢、重さ200㌔)を12基設置した。藻類の成長を観察したところ、イシモズクやフクロノリなどの藻類を数多く確認できた。岩礁地のイシモズクは平均30~40㌢の長さだが、ここでは4カ月で1㍍にまで成長していた。

 12基のうち1基は比較対象のために100%コンクリートのリーフボールを設置しており、こちらにも珪藻(けいそう)が生えていたが、成長の度合いはほかの11基の方が圧倒的に高かった。

海外ではリーフボールを使った社会活動もあると聞く。

 リーフボールは作り方を教えれば中学生でも簡単に作ることができ、夏場で乾燥していれば4時間で固まる。学校の教育や家族、自治体でやれば、海の環境問題が身近に、そして現実的に感じられるだろう。

 米国は日本よりもそのような活動が積極的に行われており、バーベキューなどをやりながら楽しく実施されている。日本もそうなっていければいいと思っている。

 最近の日本は海の規制が増えた。私が小さい頃は魚やアワビなどを自由に取っていた。潜って捕まえた魚介類を母親のところに持って行けば、その日の食事に出されたりと、子供の頃から海との生活に親しんでいた。

 今は魚が取れないので、勝手に取ったら密漁だと厳しい。これも藻が減少してきたことによる弊害の一つだ。だからこそ藻を増やして、食物連鎖や魚の産卵を促し、天然の養殖を進めていかなければいけない。