韓国 脅かされる表現の自由、「文氏は共産主義者」発言に有罪
2013年、韓国で「文在寅は共産主義者(韓国では親北朝鮮主義者と同義)で、この人が大統領になればわが国が共産化されるのは時間の問題」と発言した元検察幹部が、大統領当選後に文氏から名誉毀損(きそん)で訴えられた裁判の控訴審判決が先週あり、元幹部に有罪が言い渡され波紋が広がっている。大統領という公人中の公人に対する表現の自由が脅かされていると懸念の声が上がっている。(編集委員・上田勇実)
政権寄り判事が忖度か
文氏に告訴されたのは高永宙・元ソウル南部地方検察庁検事長。一審判決は「発言は事実摘示ではなく評価ないし意見の表明」だとして無罪だったが、検察が控訴。二審判決は一転して発言を「虚偽事実の摘示」とし、表現の自由についても「自由に伴う責任を果たさなかった」として名誉毀損罪で懲役10月、執行猶予2年を命じた。
だが、この判決には一斉に反発が起こった。高氏は法廷で「共産主義者」と主張する根拠を30項目以上挙げたにもかかわらず、検察はそのほとんどについて虚偽であると立証せず、裁判所も言及しなかった。また、何よりも表現の自由を侵害する判決である点が問題視されている。高氏の弁護人の一人はこう語る。
「文大統領のように明らかに公人である国家指導者が持つ理念は国家共同体の運命に重大な影響を及ぼすため、反対の立場からの攻撃は政治的表現の自由という観点から不可避。国民のそうした批判の権利を認めたくないなら大統領の地位から降りなければならない」
また保守系弁護士団体を率いる金泰勲弁護士は「今回の判決で権力者を批判できる国民の自由が極端に萎縮した。『親文在寅は無罪、反文在寅は有罪』という暗黙のルールが確認されたも同然」と述べた。
判決は近年、公人に対する表現の自由を広く認める判例を出している大法院(最高裁)の立場にも反する。一昨年、大法院は親北朝鮮路線で知られる元極左政党代表に対し「従北」「主思派(主体思想派)」という表現を使ったことは名誉毀損に該当しないという判断まで出した。今回、一審判決を覆し、異例で不当とも言える判決が出されたのはなぜか。
大手紙・朝鮮日報は「裁判長の崔瀚敦判事は金命洙・大法院長(最高裁長官)就任後に韓国の裁判所を牛耳る『国際人権法研究会』の中心メンバーといわれる」と指摘した。金命洙氏と言えば飛び級式に文氏の肝いりで大法院長になったと言われるほか、元徴用工判決で日本企業に賠償命令を命じた人物。その影響下で政権寄りの判事が文氏の意向を忖度(そんたく)した判決を出したのではないか、というわけだ。
今回の控訴審では判決公判の場に検事が出廷しないという異例の事態も起こった。これをめぐり「判決の量刑を事前に裁判所から知らされていたのではないか」との疑惑が浮上。また崔裁判長は公判で文氏の代理人だという人物の発言を認める異例の措置を取った。
代理人は高氏の同じ発言をめぐる民事訴訟との兼ね合いから一審裁判長が「無期延期」としていた控訴審を「早く再開させるべきだ」と発言し、まるで崔裁判長が「高氏有罪」を望む文氏の催促に応じたかのような印象を与えたという。
検察、裁判所、青瓦台(大統領府)が結託して私を追い詰めるシナリオを描いているのではないか――。判決後、ある動画共有サイトのチャンネルで高氏はこう漏らした。
高氏は判決を不服とし上告したが、公平な判断が下されるか危ぶむ声も聞かれる。