問われる議長国ドイツの手腕-EU コロナ禍からの復興
メルケル氏、大型財政出動に舵
第2波への懸念も
7月に欧州連合(EU)議長国になったドイツのメルケル首相は、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行)からのEU経済復興という重要な使命を担う。
ドイツと共にEU牽引(けんいん)役フランスのマクロン大統領との協議で、緊縮財政一辺倒の方針を改め、大型財政出動に舵(かじ)を切る決断をしたが、難題が山積している。(パリ・安倍雅信)
EUは今月17日の首脳会議で、7500億ユーロ(約90兆円)規模に上る復興基金設立計画を前進させる方針だ。5月から議論のあった復興基金のための通称、コロナ債について高債務国のイタリアなどへ不信感を露わにしてきたメルケル首相は態度を一変させ、周囲を驚かせた。
5月に仏独両首脳は5000億ユーロ規模の復興基金設立で合意していたが、先月29日、両首脳はベルリンで直接対面の形で久々に会談し、欧州委員会が先に打ち出した総額7500億ユーロの大型復興基金の構想を支持することで合意した。
世界で唯一、文化も言語も異なる国々が制度や通貨を共有するEUにとって、政治的交渉は複雑だ。信頼関係構築に欠かせない対面での首脳会談が2月以降行えず、テレビ形式の会議に終始したことはEUの求心力にも影響を与えた。ロックダウン(都市封鎖)で悪化した欧州経済の再建に不可欠な復興基金について、7月から半年の議長国ドイツとフランスの首脳の対面協議ができたことは大きな意味を持った。
2021年に退任予定のメルケル首相にとっては、最後の花道を飾れるかどうか議長国としての手腕が問われる。17日の首脳会議は対面形式で行う予定だが、感染第2波の懸念もあり、毎回、昼夜分かたず首脳や欧州委員が細部にわたってブリュッセルで協議してきたようにはいきそうもない。
そのEUの欧州委員会には、ドイツ出身のフォンデアライエン委員長というメルケル氏にとっては心強い人脈もあるが、感染医でもある同委員長はコロナ禍対応で初動が遅れ、特にEU域外からの渡航者をブロックするのに手間取った経緯もあり、さらに欧州復興基金の取りまとめでも指導力が問われた。
EUはコロナ禍対応でこれまで統一された対応が取れず、加盟各国間の協力も不十分だった。景気回復のテコ入れでEUとして大胆な政策を打てなければ、コロナ禍で息を潜めているEU懐疑派やポピュリズム政党が勢いづく可能性もある。
一方、メルケル氏にとって、EU復興で最も重要なパートナー国フランスのマクロン氏との関係は良好だ。メルケル氏がコロナの対応で、低調だった支持率を回復させているのに対して、マクロン氏の旗色は極めて悪い。
28日に行われた統一地方選挙の決選投票で、同氏の中道与党・共和国前進(REM)が主要大都市で敗北し、求心力が低下している。5月にはREMの会派から国民議会議員7人が離党し、議会でも過半数割れに追い込まれており、任期2年を残し、支持率も上がっていない。
マクロン氏は起死回生を図るため、フィリップ首相に代わり中道右派のジャン・カステックス氏(55)を首相に指名し、内閣改造を行った。残り任期2年のマクロン政権は仕切り直しで再出発したが、コロナ禍で傷ついた企業は多く、仏航空大手エアバスやエールフランス、自動車メーカー、ルノーなどの大型人員削減をどうくい止めるか課題は多い。
実は支持率が回復しているメルケル氏も後継候補として最有力視されていた与党・キリスト教民主同盟(CDU)のクランプカレンバウアー党首が今年2月に突如退任を表明し、勢いづく極右政党や環境政党の主張に耳を傾けざるを得ない状況もある。コロナ禍の封鎖措置解除で経済再生に動く中、感染第2波により一部封鎖が再開され対応を誤ればメルケル氏も自国で順風満帆というわけでもない。