コロナ禍後の社会騒乱懸念―フランス

 フランスでは封鎖措置緩和第2段階に入り、1週間が経(た)つ。移動制限が解除され、観光業が活気を取り戻す一方、黒人差別の警察への抗議運動が起き、ストレスを抱えた社会的弱者による社会的混乱への懸念も高まっている。経済回復に着手しながらも感染第2波に備え、遠隔医療の緩和など医療崩壊回避にも取り組んでいる。(パリ・安倍雅信)

黒人差別めぐり抗議デモ
“封鎖緩和”で観光には活気

フランス・パリで、封鎖緩和を受けてマスクを着けて自転車やキックボードで移動する住民(5月12日UPI)

フランス・パリで、封鎖緩和を受けてマスクを着けて自転車やキックボードで移動する住民(5月12日UPI)

 米国で黒人男性のジョージ・フロイドさんが警官の膝で押さええつけられ死亡したことで、警官の人種差別に抗議する運動が全米で高まるのを受け、フランスにも抗議運動は飛び火している。同国では2016年に警察の拘束下で黒人男性、トラオレさん(24)が死亡し、パリで今月2日、警察発表で約2万人が参加する大規模な抗議デモが行われた。

 一部でデモ参加者と警官隊の衝突が発生し、米国での抗議行動で使用されている「黒人の命は大切」のプラカードや「息ができない(警官に押さえつけられたフロイドさんの言葉)」などのスローガンを参加者が叫んだ。

 フランスでは同日、新型コロナウイルス対策の封鎖の緩和措置が第2段階に入り、自宅からの移動100キロ制限が解除された。一方、パリ首都圏は大幅な緩和が行われず、10人を超える集会も禁止されていたが、2日午後には大勢のデモ参加者がパリ市内北東部の裁判所前に集結した。

 死亡したトラオレさんは警察車両の中で気分が悪いと訴えたにもかかわらず、警官に相手にされず、警察署に到着後死亡が確認された。抗議集会は6日にもパリのエッフェル塔近くのシャン・ド・マルス公園や米大使館前に集合が呼び掛けられ、集会を禁じるパリ警察と衝突が続いた。

 フランスでは18年秋から昨年秋まで1年以上、反政府抗議運動の黄色いベスト運動が続き、その後、年金改革で労働組合の強い反発から今年1月までストライキや抗議デモが全国で展開された。政府の新型コロナの初動の遅れには労組との交渉に政府が手間取っていたことも指摘されている。

 3月中旬からの2カ月にわたる外出制限令を含む封鎖措置で抗議集会も禁じられていた。緩和措置第2段階で実質的に外出が自由となったが抗議集会は禁止されている。封鎖期間に失業者が急増し、マクロン大統領就任以来、縮小していた高い失業率は、就任当初の9%近くに戻ってしまい、特に移民系労働者の生活困窮が進んでいる。

 ストレスと不安を抱えたアフリカ系移民が、米国のフロイドさんの死による抗議運動に触発され、抗議運動が広がったことは政府にとっては最悪の事態と言える。パリ以外のリール、マルセイユ、リヨンなどの都市でも抗議デモが行われ、政府は米国での抗議運動の長期化の影響を恐れている。デモ参加者には無政府主義者や暴力グループも見掛けられた。

 フランスは新型コロナで甚大な被害が出て死者数は3万人に達し、欧州では英国、イタリアに次ぐ3番目に多く、世界でも5番目だ。現在は予想以上に新規感染者数、集中治療室に入る重篤患者数、死者数ともに減少し、パリ首都圏を除き、学校の再開、レストランやカフェの開店も許可され、夏のバカンス時期には消費の回復も期待されている。

 感染リスクを抱えながらも経済再生を急ぎたい政府にとって社会的騒乱はあってはならない。下院で圧倒的多数を占めていたマクロン氏創設の共和国前進は議員の離党が相次ぎ、富裕層重視と受け止められた経済政策は不人気で、コロナ対策で得点を挙げられず、マクロン政権は求心力を失っている。

 経済再生を急ぎたい政府だが、感染拡大第2波も懸念される中、3月に起きた医療危機で重篤患者をドイツの医療施設に送り込む事態になったため、医療体制の整備を進めている。感染者数が毎日100人単位で増加していた今年3月、フランス政府は、インターネット等を介して医師の診察を受けられる遠隔診療に関する従来の規制を時限的に緩和した。