新型コロナウイルスが欧州で感染急拡大
各国が全土封鎖など緊急対応
新型コロナウイルスがパンデミック(世界的大流行)となった今、中国に続き欧州が感染拡大の中心地になろうとしている。すでに中国に次ぐ感染者数のイタリアで全土が封鎖され、スペインは非常事態宣言を出すなど本格的対策に乗り出している。国境封鎖も視野に入れ、人命と経済への影響の両面から対策が急がれている。
(パリ・安倍雅信)
ダメージ深刻な観光業
世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長が、新型コロナウイルス感染拡大について、「欧州が今や、パンデミックの震源地となった」と述べたのは今月13日、その後のイタリア、スペイン、フランスなどの死者数の急増はとどまる気配がない。
中国を除き、世界最多の感染者を出しているイタリアでは、コンテ首相が9日に中国でも実施されなかった全土の封鎖に踏み切り、移動制限のみならず、薬局とスーパー以外の全ての店舗を閉店させ、感染拡大の押さえ込みに必死だ。しかし、15日には感染者が2万4747人、死者数1809人と増加し続けている。
スペインでは、新規感染者が13日から14日の間に1500人超増加し、感染者数は計8000人に達した。サンチェス首相は非常事態宣言を発令し、全土で人の移動を制限し、仕事や病院の受診、食料品の買い出し以外の外出を禁止する措置に踏み切った。
フランスは、感染者が12日からの72時間で倍増したことを受け、サロモン保健相が14日、感染対策について「第3段階に入った」と宣言した。同日フィリップ仏首相は15日から薬局、生活必需品を扱う店舗を除く、レストランや店舗、劇場などを全て休業する措置を、期限を定めずに実施することを発表した。16日には感染者は5000人を超え、死者127人に達した。
一方、15日に感染者数が6000人に近づいたドイツでは死者数13人と少ないが、メルケル首相は、「このまま放置すれば国民の60から70%に感染拡大する可能性がある」と発言し、政界から不安をあおると非難を浴びた。そのドイツも16日から、ほとんどの連邦州が学校と保育所を閉鎖し、三つの国境を閉鎖した。
英国では15日時点で、感染者数は1391人、死者は35人だが、英政府は2日、感染拡大を阻止する対策を発表しており「科学的根拠に基づき、政府があらゆる合理的な措置を講じ、変化する状況に迅速に対応できるようにする」として、政府に意思決定権限を与える新法の成立や、警察で補えない活動を軍に委託する措置を表明している。
その他、デンマークでは14日から外国からの短期入国者の入国を禁止しており、チェコは在留許可のある人を除き、全ての外国人の入国を禁止した。オーストリアも全ての外国人に対してイタリアとの国境検問所3カ所を封鎖し、ハンガリーはオーストリアおよびスロベニアとの国境を封鎖している。
WHOのテドロス事務局長は「欧州では、中国で感染拡大のペースが最悪だった時期以上のペースで感染者が増加している」と危機感を表明した。米国以上にWHOへの信頼感を持つ欧州諸国は、WHOが発する声明を重視しており、欧州連合(EU)加盟各国政府は、WHOの見解に従い、次々に緊急対策を打ち出している。深刻なダメージを受けるのは観光業で、国内総生産(GDP)に占める観光業の割合が経済協力開発機構(OECD)の調査(2016年)で、世界トップのスペイン(11・1%)、5位のフランス(7・1%)、7位のイタリア(6・0%)などが、近年、急増した中国人観光客の激減で深刻な危機に直面している。
加えて、米国のトランプ大統領が、人の移動を保障するEUのシェンゲン協定加盟26カ国及び英国、アイルランドからの入国を1カ月間禁止したことを受け、ビジネス界は人の行き来ができなくなることでの経済的悪影響に強い懸念を表明した。
そのシェンゲン協定加盟国間でも国境管理が強化され、イタリアはフランスから国境を越えて来る人々の制限を実施し、ドイツ・フランス間の国境でも検温が実施されたりしている。経済の要である物資の流通が止まれば、EU内の製造業はサプライチェーンを寸断され、EUは経済危機に陥る可能性は増大する。欧州中央銀行(ECB)は12日、予想される経済減速に対して量的緩和の規模を拡大する方針を明らかにした。これに対してマクロン仏大統領は「十分だとは思わない」と指摘している。