北ミサイル発射、一時も警戒心を緩めるな
北朝鮮が東部の元山付近から日本海に向け2発の短距離弾道ミサイルとみられる飛翔体を発射した。北朝鮮のミサイル発射は昨年11月以来、約3カ月ぶりで今年に入ってから初めて。新型コロナウイルスの感染拡大で世界が混乱する中、意表を突かれた武力挑発だが、いかなる状況下でも北朝鮮の脅威には一時も警戒心を緩めてはならない。
技術的向上に成果か
今回の発射で北朝鮮は技術的向上を図ろうとしたようだ。
まず2発の発射間隔がそれまで最短だった昨年11月の発射時の30秒よりさらに短い20秒だった。連射能力を向上させた可能性がある。
ミサイルは240㌔飛行して落下したとみられているが、この距離はちょうど元山から韓国・平沢にある米軍基地までと同じであるため、在韓米軍への攻撃を想定したものではないかとの見方が出ている。
さらにミサイルの高度が35㌔であったことから、韓国南部に配備されている高高度ミサイル防衛システム(THAAD)による迎撃を回避するシミュレーションも兼ねていたという指摘まで上がっている。
北朝鮮国営メディアが、発射に立ち会った金正恩朝鮮労働党委員長が「大満足だった」と伝えたのも、宣伝効果を狙っただけではなく、技術的向上に一定の成果を収めたからであろう。
北朝鮮は昨年末、非核化をめぐる米国との駆け引きで武力挑発に踏み切る恐れがあった。だが、その時は何もせず、今になってミサイルを発射した。米国を揺さぶるため確たる技術的向上を誇示する必要があったことも関係している可能性がある。
米国は11月の大統領選に向け本格的に動き出した上、トランプ大統領は選挙までは正恩氏との首脳会談は行わないと明言するなど、北朝鮮情勢は米国の関心から遠ざかっていた。再び関心を引いて制裁緩和に向け米国との交渉を再開させたいという思惑もありそうだ。
だが、北朝鮮が核搭載のミサイルをいつ発射するか分からないという最悪の可能性が消えていない限り、政治的理由だけで武力挑発していると片付けてしまうわけにはいかない。
正恩氏は先月末に朝鮮人民軍の合同訓練を視察したと伝えられていた。韓国軍は今回の発射はこの訓練の一環だとの見方を示している。北朝鮮も新型肺炎に対する防疫に国を挙げて取り組んでいるが、非常事態でも軍事訓練は行っているわけだ。
一方、韓国では新型肺炎の感染拡大を理由に米韓合同演習を延期した。今回の発射はこうした米韓の対北抑止力の緩みに乗じ間髪を入れず断行した側面もあるとみるべきだ。
その意味で、北朝鮮のミサイル発射を抑止するために不可欠な日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を韓国側が軽視するようなことは断じてあってはならない。
文氏は脅威を直視せよ
韓国の文在寅大統領は新型肺炎への対応をめぐって北朝鮮に手を差し伸べることには熱心でも、北朝鮮の脅威への対応を強化することには及び腰だ。軍備増強の手を緩めない北朝鮮の脅威を直視してもらいたい。