欧州経済界が対中政策再考提案

中国の国家資本主義に懸念

 欧州産業連盟(UNICE)は今月16日、中国の国家資本主義が欧州連合(EU)にも悪影響を与えているとして、改善を求める意見書を明らかにした。これまで中国との経済関係強化に動いてきたEUだが、米中貿易摩擦を背景に中国のビジネス慣行が引き起こす市場歪曲問題などで、経済界は対中経済政策の見直しを提案している。
(パリ・安倍雅信)

トランプ米大統領(右)と劉鶴副首相

15日、米ホワイトハウスで貿易協議「第1段階」の合意文書に署名するトランプ米大統領(右)と中国の劉鶴副首相(AFP時事)

 欧州諸国の国内産業諸団体でつくるUNICEは16日、中国に対して、国家資本主義による構造問題や市場の歪みをもたらす慣行の改善を求める意見書を明らかにした。

 前日15日、中国は米国との間で両国の第1段階の経済・貿易協定に署名し、米国が要求していた知的財産の保護や金融市場の開放、為替操作の禁止などを約束することに合意した。意見書は同協定の署名を受けた形で、EUでも対中国経済政策を見直すことを提案している。

 UNICEの認識は、中国との経済関係において機会と課題のバランスに変化が生じているため、EUは中国との関わり方を再考する必要があるとしている。その結果、中国の国家主導の経済システムがEUにもたらすシステム上の課題に対処するために、四つの主要な目標を挙げている。

 一つ目はEU・中国間の公平な競争条件確保、二つ目は市場の歪みをもたらす中国政府の影響緩和、三つ目はEU内の競争力強化、四つ目は第三国市場での公正な競争と協力確保としている。

 意見書では、中国の国家資本主義は中国国内のみならず、EU域内でも欧州企業の潜在的競争力を阻害しているとの認識の上で「中国の構造的問題を放置することは許されない」(マルクス・バイラーUNICE事務総長)とし、中国に改善を求めるだけでなく、EUの対中国経済政策の再考の必要性を迫っている。

 具体例として、中国が推進する巨大経済圏構想「一帯一路」のプロジェクト入札で、在中国・欧州企業が入札の不透明性を問題視していることなどを挙げ、改善を要求している。

 EU域内では加盟各国で対中経済政策はバラバラで、ドイツなど中国との関係の長い国は、積極的なビジネス誘致を行った結果、例えば、安価な中国メーカーのソーラーパネルの流入で、何社ものドイツメーカーが倒産や撤退に追い込まれたりしている。

 イタリアは昨年3月、主要7カ国(G7)メンバー国として初めて、中国の「一帯一路」への正式な支持を表明し、同国のジェノバ西リグリアや東アドリアの港湾整備事業に中国が巨額投資する協定に署名したことで、EUは懸念を表明し、足並みの乱れが露呈した。

 景気低迷に苦しむイタリアとしては、一方でブリュッセルから緊縮財政政策の見直しを迫られ、なりふり構わない中国マネーの導入に踏み切った形だ。だが、米中貿易戦争で明るみに出た強引で不透明な中国政府主導の投資実態を懸念するEUとしては、中国マネーに飛び付くリスクに注目が集まり、慎重になっている。

 EU加盟国には、拡大を続ける中国の勢いに乗って、自国の景気回復を行いたいという動きが、2000年以降加速し、ドイツに遅れをとるフランスは、2007年発足のサルコジ政権以降、歴代大統領が大経済使節団を率いて中国を訪問し、大型契約を結ぶなど、対中経済関係を強化してきた。

 今回のUNICEの意見書でも、経済パートナーとしての中国とEUの関係強化を最初に挙げており、基本姿勢に変更はないものの、関係強化の障害となる経済システムの違いが引き起こす歪みの改善は急務としている。

 具体的には、中国と外国企業間の市場アクセスの格差、戦略的セクターにおける中国国内での中国企業の資金調達の優位性、安価な土地とエネルギー優先提供、州の不公平支援、選ばれた人々への優先的支援など、多くの差別的な慣習が市場の歪みを生み出していることを問題視している。

 EU産業界が、ここまで中国政府の国家経済政策に踏み込んだ体系的な改善要求をするのは珍しく、EUは対中経済政策を最優先事項として取り組む必要があるとまで言っている。特に欧州経済界の最大の懸念は、中国では市場経済が国家主導の経済を改革するのではなく、国家主導の経済統合強化に動いていることだとしている。