オーストリアで国民党・緑の党連立政権発足へ
オーストリアで中道右派・国民党と緑の党の連立交渉が成功裏に終わり、7日にも大統領府でバン・デア・ベレン大統領の下で宣誓式に臨み、連立政権をスタートさせる。州レベルでは両党の連立は存在するが、連邦レベルでは初めてなだけに、その行方にはさまざまなハードルが控えている。
(ウィーン・小川 敏)
税率下げ、環境優遇政策で一致
移民対策では大きな乖離
国民党のクルツ党首は1日、「国民党と緑の党は政策的には違いがあるが、連立交渉では全く異なる政党の二つの世界からベストを引き出すことに成功した。具体的には、税率を下げ、税体制を環境優遇政策に一致させ、国境の監視強化と環境保護を目指すものだ」と述べている。
緑の党は4日、党連邦会議(代表264人)をザルツブルクで開催し、国民党との間で合意した連立協定に対する信任投票を実施。賛成246、反対15、棄権3で国民党との連立政権にゴーサインが出た。国民党では、クルツ党首に一任され、連邦レベルで連立協定の是非を問う必要はない。
国民党と緑の党の予備交渉は10月9日からスタート。本格的な連立交渉は11月11日から始まったが、産業界の支持を受ける国民党に対し、環境問題を最優先する緑の党とは違いが鮮明だった。オーストリアでは戦後4番目に長い連立交渉となった。
新政権では、国民党は財務相、外相、内相、経済相、国防相など主要閣僚ポストを独占。緑の党は副首相、環境インフラ相、司法相、社会相の4閣僚。新政権では8人の女性閣僚が生まれ、女性の閣僚率は53・3%と男性のそれを上回った。平均年齢は45歳。最年少閣僚はクルツ首相で33歳。最年長閣僚は再任されたハインツ・ファスマン教育相で64歳だ。なお、新政権で統合省が新設され、クルツ党首の信頼の厚いスザンネ・ラーブ女史が就任する。
新政権で最大の難問は移民・難民対策だ。強硬政策を実施してきた国民党に対し、緑の党は移民・難民の受け入れに積極的だ。例えば、300ページに及ぶ連立協定では、犯罪を犯していなくても、危険のある難民を犯罪予防という観点で拘束できることを認めている。緑の党の党員から反発が予想される。また、14歳まで学校内でイスラム教徒のスカーフ着用を禁止することが明記されている。
連立協定では、国民党の意向を反映し、税制改革、不法難民、過激なイスラム教徒への対策強化などを明記する一方、公務機密の廃止、飛行機の利用では近中距離飛行の場合、一律12ユーロの環境税の導入など緑の党カラーも反映されている。
オーストリアでは2017年の総選挙の結果を受け、国民党と極右・自由党の連立政権が発足した。だが、自由党のシュトラーヒェ前党首がスペインの避暑地イビザ島で自称ロシアの女性富豪と面会し、党への献金を要求。その引き換えに公共事業の受注斡旋やオーストリア最大日刊紙の買収などを持ち掛けた。その会談内容が昨年5月、ドイツメディアにリークされ、シュトラーヒェ氏は副首相と党首のポストを辞任した。その直後、国民党と自由党の右派連立政権は3年以上の任期を残して解消され、昨年9月29日に総選挙の早期実施となった経緯がある。
国民議会(下院、定数183)選では、クルツ前首相率いる国民党が得票率37・5%を獲得した。一方、地球温暖化で環境問題がグローバルイシューとなり、追い風を受けた緑の党が得票率13・9%と大躍進し、議会カムバックを果たした。
欧州メディアは、政策が全く異なる新連立政権の発足を「政治的実験」「欧州の新しい政治モデルか」といった見出しを付けて報じている。
参考までに、メルケル独首相の与党キリスト教民主同盟(CDU)は社会民主党(SPD)と大連立政権を組んでいるが、SPDが大連立から離脱した場合、「同盟90/緑の党」との連立を視野に入れてきた。それだけに、CDUは隣国オーストリアの姉妹政党・国民党と緑の党との連立政権の動きに強い関心を示している。