“ジュゴン絶滅”を辺野古工事の仕業にしようと躍起の沖縄タイムス

◆居場所変えた可能性

 「本島周辺ジュゴン絶滅か」。先月、沖縄タイムスにこんな見出し記事が載った(12日付)。翌日の社説には「ジュゴン絶滅か 工事を止め全県調査を」とあった。工事とは米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への移設工事のことで、「ジュゴン絶滅」と「辺野古」をリンケージさせ、工事中止を求めている。

 いったい何事が起こったのか。記事によると、防衛省沖縄防衛局が専門家から助言を受ける環境監視等委員会の会合で、辺野古沖などで確認されていたジュゴン3頭について、ある委員が「絶滅の可能性が高い」と発言した。紙面はそこを大きく取り上げ「絶滅」の文字を掲げる。

 絶滅? 海洋哺乳類ジュゴンは数百キロも移動することがあるとされる回遊動物だ。オーストラリアの北部海域からアフリカ東海岸にかけて生息し、北限は沖縄本島。記事には別の委員が「(現在の本島周辺の)航空調査で発見できないと考えると、ほかの所に行ったというのが合理的だ」と発言したとある。絶滅ではなく、ほかの所に行った? となると、ニュアンスが全然違ってくる。

 ジュゴンは沖縄では縄文期から食用にされ、明治にはダイナマイト漁で多数捕獲された。戦後の食糧難では貴重なタンパク源となり頭数が激減。本土復帰の1972年に天然記念物に指定されたが、大規模埋め立てなどで餌となる海草藻場が減り、近年では3頭だけが確認されている。

 そのうちの1頭は今年3月、東シナ海側にある本部半島、今帰仁の漁港近くで、死骸で見つかった。太平洋側の辺野古とは遠く離れているのに地元紙は移設工事を「殺害犯」のように書き立てた。だが、海獣類の専門家らが解剖したところ、死因はノコギリ歯状の突起を持つオグロオトメエイに刺されたためで、辺野古工事とは全く関係なかった(今年7月29日発表)。

 沖縄タイムスはこの事実を葬り去るかのように社会面で小さく報じただけだった。それで筆者は本紙9月7日付「沖縄時評」で偏向報道と指摘したが、今回も懲りずに「ジュゴン絶滅」を辺野古の仕業にしようと躍起のようだ。

◆全県調査は既に実施

 同紙は「全県調査を」と言うけれど、沖縄防衛局は綿密に調査している。例えば、沖縄島北部の西海岸から辺野古岬、中部の東海岸側を対象に航空機から目視調査。辺野古沖、嘉陽沖(辺野古の北東約5キロ)、古宇利島沖(西海岸側・今帰仁村)で水中録音装置を設置し生息確認。さらに海草藻場は潜水目視観察で食(は)み跡を調査している。

 それでもジュゴンは見つからない。死骸もない。とすれば、回遊して「ほかの所に行った」と考えるのが合理的だ。それを「絶滅」と表現するのは恣意(しい)的だ。絶滅とは「滅ぼして絶やすこと。絶えほろびること」(広辞苑)を言うが、そこに辺野古工事を持ち出すと、人為的な「滅ぼして絶やす」のニュアンスで伝わる。あえてそれを狙った印象操作をしたのだろう。

 防衛省の調査でも飽き足らずに全県調査を言うなら、それはもはや自然保護の話で、環境省や沖縄県の仕事だ。辺野古工事を止めなくてもできる。もっとも県は既に行っており、環境部自然保護課の「平成30年度ジュゴン保護対策事業報告書」(今年3月)に詳しい。

 それによれば、目撃情報は平成22年以降では5件。西海岸の今帰仁付近で3件、本島南部で1件、那覇北西の渡名喜島海域で1件。同島での目撃情報は本島以外では初めてで、「ほかの所に行った」のがここらしい。

◆市民を守る気はなし

 とまれ沖縄タイムスはジュゴンを守ることには熱心でも、普天間市民を守る気はさらさらないようだ。市民は回遊動物でないから、行く所がない。だから飛行場の辺野古移設を決めた。代案もなく、それを潰(つぶ)そうとするのは、反米のためなら「普天間市民絶滅」も厭(いと)わないからか。反辺野古の悪意にぞっとする。

(増 記代司)