米大統領選、左傾化する民主党

社会主義者サンダース氏が急浮上

 米民主党の大統領候補指名争いで、「社会主義者」を自称するバーニー・サンダース上院議員(73)が急浮上している。大本命ヒラリー・クリントン前国務長官の人気低下とともに、リベラルなオバマ大統領の下で民主党の左傾化が進み、社会主義的な政策に同調する有権者が増えたことが大きく影響している。
(ワシントン・早川俊行)

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7月26日、米ルイジアナ州で開いた集会で演説するバーニー・サンダース上院議員(UPI)

 民主・共和両党を通じ、現在、大統領候補が開く政治集会で群を抜く動員力を見せているのがサンダース氏だ。10日にロサンゼルスのスポーツ施設で開いた集会には、収容人数1万6000人を大きく超える2万7500人が詰め掛けた。多くの人が会場に入れず、場外のスクリーンで同氏の演説を聞いたほどだ。

 これは、クリントン氏が開いた集会の最高動員数5500人の5倍。サンダース氏はこのほか、オレゴン州ポートランドで2万8000人、シアトルで1万5000人、アリゾナ州フェニックスで1万1000人をそれぞれ動員している。

 サンダース氏は全米の支持率でクリントン氏に引き離されているものの、最初の予備選が行われる北東部ニューハンプシャー州では、最近の世論調査で民主党支持層の44%の支持を獲得。長官在任中に私用のメールアドレスを公務に使っていた問題をめぐり、人気に陰りが見られるクリントン氏の37%を上回った。

 無所属議員のサンダース氏は議会で民主党会派に加わっているが、正式に民主党の一員になったことはない。むしろ、民主党を「思想的に破綻している」と批判するなど、毛嫌いしてきた過去がある。「部外者」ともいえる人物が旋風を巻き起こしているのは、異例の展開だ。

 民主党内で穏健派のイメージが強いクリントン氏に不満を持つリベラル派の支持がサンダース氏に流れ込んでいることは確かだが、社会主義的な政策に共鳴する有権者が増加していることも同氏の台頭をもたらす大きな要因となっている。

 サンダース氏は上院議員になる前に下院議員を16年務めたが、初当選したのは1990年。ウォール・ストリート・ジャーナル紙に掲載されたシンクタンク、マンハッタン研究所のジェイソン・ライリー上級研究員の評論によると、社会主義者の下院議員が誕生したのは1929年以来だったという。欧州諸国とは対照的に、米国が長らく「社会主義不毛の地」だったことを物語るものだ。

 だが、現在の民主党では、社会主義者サンダース氏への抵抗感はほとんど見られない。ライリー氏は「オバマ大統領の時代では、サンダース氏も国家統制主義的な政策を掲げるただのリベラル派にすぎない」と指摘し、オバマ氏の下で左傾化が進んだ民主党では、サンダース氏はもはや異端な存在ではないとの見方を示した。

 インターネット調査会社YouGovが5月に行った世論調査によると、資本主義を好ましいと考える人は52%、社会主義を好ましいと考える人は26%だったが、民主党支持者に限定すると、ともに43%だった。また、若い世代ほど社会主義を好ましいと考える割合が高かった。

 保守派コラムニストのデービット・ハーサニーイ氏は、「民主党支持者が共産主義理論を学ぶ純粋な社会主義者と言うつもりはないが、多くの人が世界の他の国々では社会主義とみなされる政策を支持している」と指摘。サンダース氏が民主党の候補指名を獲得するのは難しいとしながらも、同氏の台頭は「民主党の社会主義的な将来を予示している」と述べ、社会主義を志向する勢力が党内で一段と影響力を拡大していくとの見通しを示した。