米国在住の脱北者パク・ヨンミさんの警鐘
《 記 者 の 視 点 》
「北朝鮮より文化的に退廃、米国の未来は暗い」
「(米国の未来は)北朝鮮と同じくらい暗い」――。
米国では、リベラルな価値観にそぐわない言論を封じ込める「ポリティカル・コレクトネス(ポリコレ)」などにより、異質な社会に変わり果ててしまったと嘆く論評を見掛けることが多くなった。だが、冒頭で紹介した以上の痛烈な批判はないだろう。米国が世界最悪の抑圧国家と同程度にまで劣化してしまったというのだから。
FOXニュースのインタビューでこう語ったのは、米国在住の脱北者パク・ヨンミさん(27)。13歳の時に母親と共に北朝鮮を脱出し、中国で人身売買された後、命からがらモンゴルに逃れ、韓国に亡命した壮絶な経験を持つ。
北朝鮮では一切自由が許されない地獄のような生活を味わった。そんなパクさんでも米国の文化的退廃は理解を超えるものだという。「北朝鮮は本当に狂っていた。でもここまで狂ってはいなかった」
パクさんは韓国の大学で学んだ後、憧れだった米国に渡り、アイビーリーグ(東部の名門私立8大学)の一つ、コロンビア大学に入学。だが、そこで体験したのは、北朝鮮と同じ反欧米主義と画一的な考え方の押し付けだった。
パクさんはFOXニュースに“幻滅”の事例を幾つか語っているが、その一つが大学のオリエンテーションでの出来事だ。パクさんが英国の小説家ジェーン・オースティンらの古典文学を愛読していると語ったところ、職員に叱責された。「これらの作家は植民地思想の持ち主、人種差別主義者であり、無意識のうちに人々を洗脳している」というのである。
米国の名門大学が西欧の古典文学を植民地主義、白人至上主義と決め付け、学生に読むなと指導しているとは、何とも恐ろしい。むしろいびつな左翼イデオロギーの洗脳と呼ぶべきではないか。
北朝鮮は情報を統制し、国民は政府プロパガンダに洗脳されていたが、「米国でも同じことが起きている」と、パクさんは嘆く。米国民は「物事を批判的に捉える能力を失い、自ら洗脳されることを選んでいる」というのだ。
パクさんは自由を求めてゴビ砂漠を歩いて渡ったが、それを何とも思っていない。なぜなら、自分よりも苦労したのに自由になれなかった人が多くいるからだ。そんなパクさんには、自由を謳歌(おうか)しながら差別の被害者だと不平を言う米国の若者たちの姿がもどかしい。「自由になる大変さが分かっていない」と。
パクさんはさらに、米社会の現状を「法秩序もモラルも善悪もない。完全なカオス(混沌(こんとん))だ。すべてを破壊し、共産主義者の楽園の再建を望んでいるようだ」とまで言い切った。過激な発言だが、保守層の多くがこの見方に同意しているのだから、事態は深刻である。
日本にも、ポリコレをはじめ米国発のリベラルな価値観が流れ込んでいる。もしパクさんが日本で生活したら、米国ほどではないにせよ、理解できない経験をするに違いない。パクさんの嘆きは、日本を含む西側社会全体に対する警鐘と受け止めたい。
編集委員 早川 俊行
(サムネイル画像:Juddweiss – 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=37221945による)