露の東南ア外交、欧米との対立受けての接近か
ロシア・東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議がシンガポールで開かれ、ロシアのプーチン大統領とシンガポールのリー・シェンロン首相らASEAN加盟10カ国首脳が出席した。プーチン氏のシンガポール訪問は初めて。
「戦略的関係」をうたう
シンガポールでは日米中やASEANなど18カ国の首脳が参加する東アジアサミットも開催され、プーチン氏が初めて出席した。ウクライナ問題や英国での神経剤によるロシアの元情報員暗殺未遂事件などをめぐって対立する欧米諸国による経済制裁を受ける中、ASEANへの接近でロシアのアジア重視の姿勢を示すためとみられる。
ロシア・ASEAN首脳会議では、両者の関係を「従来の対話レベルから戦略的関係に引き上げること」で合意。採択された共同声明には、ロシアとASEANとのハイレベルの政治交流や経済連携の促進が盛り込まれ、政策・安全保障、経済、社会文化の各分野で協力していくことが明記された。特に経済分野では協力対話の枠組みを、ロシア単独から、ロシアが主導するユーラシア経済連合(EEU)、中国が参加する上海協力機構(SCO)まで拡大させる方向性が示された。
プーチン氏は「ロシアは相互に信頼し、お互いの利益を考慮するという原則に沿って、ASEANとの関係を発展させることに大きな関心を持っている」と述べた上で、来年にサンクトペテルブルクとウラジオストクで開かれる国際経済会議にASEAN各国の代表を招待した。
また、情報通信分野に関しては別の声明が採択され、情報通信技術の悪用対策や人材育成などでの協力を推進することがうたわれている。
ロシアはアジア太平洋地域の枠組みとして、アジア太平洋経済協力会議(APEC)を重視する傾向が強かった。しかし今回のプーチン氏はAPEC首脳会議を欠席し、ASEAN関連の会議を選んだ形となった。
ロシアとASEANの貿易量は近年大幅な伸びを見せ、お互いの投資総額は2017年に250億㌦に達したという。ロシアはまた、ASEAN諸国への武器輸出で存在感を拡大する戦略が近年顕著となっている。
17年10月にロシアはフィリピンとの間で初めて、対戦車ロケット砲や砲弾の売買契約を結んだ。フィリピンはさらに、攻撃型ヘリコプターや潜水艦の購入も検討していると言われる。昨年まで10年間でASEAN10カ国のうちベトナム、マレーシアに対しロシアは武器供給で首位を保った。
ベトナムの場合、ロシアが主要な武器供給国となっている関係から、ロシアの軍艦と空母が南部の要衝カムラン湾の軍事施設に無制限に立ち寄ることを認めている。
日米は地域の安定図れ
北朝鮮情勢やアジア太平洋地域の安全保障をめぐって米国を牽制(けんせい)したいロシアが、ASEAN諸国への影響力を強めようとしている。
日本はその動向を注視するとともに、米国などと連携して地域の経済成長や安定を図る必要がある。