GDP第2四半期、4.6%減 景気後退強まるロシア
欧州産食品の禁輸措置強化
輸入食料品、6日間で474㌧廃棄
原油安などによる輸出減少に加え、ウクライナ問題を受けた欧米による経済制裁がロシア経済に追い打ちをかけている。ロシア国家統計局が10日に発表した4~6月期の国内総生産(GDP)は、前年同期比4・6%減となった。一方でプーチン大統領は6日、対露制裁に対抗して発動した欧米産食品の輸入禁止措置を徹底する大統領令に署名した。欧州産食品を大規模に廃棄することで愛国心を高揚させ、景気後退への不満を逸らせる構えだ。(モスクワ支局)
ロシアの主要輸出品である原油の価格と、通貨ルーブルの為替レートは密接な関係にある。2014年初めのルーブルの為替レートは、1㌦=32ルーブル。当時の原油価格は1バレル当たり95㌦。原油価格は6月に105㌦まで上昇したが、その後急落して同年12月には59㌦。ルーブルも暴落し、12月15日には1㌦=80ルーブルとなった。
その後、ロシア中銀のテコ入れで、為替レートは1㌦=50ルーブル前後で安定した。原油価格も3月の47㌦で底を打ち、その後、59㌦まで回復した。しかし、7月に入り、イランの原油禁輸が解除されるという見通しが広がったことで原油価格は下落。ルーブルも8月に入り1㌦=64ルーブルまで下落した。
ルーブル安により物価が上昇しており、消費の低迷を引き起こした。原油価格の下落と先行き不安は、投資の減少に直結する。加えてウクライナ問題を受け、欧米がロシアに科する経済制裁が、じわじわと影響を与えている。
ロシアの第2四半期のGDPは4・6%減。第1四半期(1~3月期)は2・2%減だったので、2期連続のマイナスだ。ウリュカエフ経済発展相は6月、「ロシアは第2四半期にGDPが3%減少するが、第3四半期には底を打ち、第4四半期には回復期に入る」と語ったが、現実はこの見通しを大きく下回った。
ロシア経済に悲観的な材料が増え、ルーブルの下落が進む中でプーチン大統領は7月29日、欧米産食品の輸入禁止措置を徹底するために、押収品の廃棄処分を進める大統領令に署名したのだ。景気後退により国民の不満が広がることを防ぐため、密輸品を大々的に処分することで愛国心に訴え、国内の引き締めを図る形だ。
ウクライナ問題を受け、欧米が対露経済制裁に踏み切ったことを受け、ロシアが対抗措置として打ち出したのが欧米からの農産物禁輸措置だった。当初、議会では「経済制裁により消費者は自国製品を買うようになり、ロシア国内産業は大きな恩恵を受ける」などの発言が繰り返されていた。しかし、それから1年が過ぎたが国産品への代替は進まなかった。食料品価格は上昇し、密輸が横行している。
大統領令は6日に施行され、11日までの6日間に、実に474㌧の食料品を廃棄処分にした。最も多いのは野菜や果物で433㌧。次いでチーズが30㌧、肉が11㌧。ロシアのテレビのレポーターは、これら食料品を廃棄する様子を、まるで誇るかのように次々と報じた。
ウクライナ東部にほど近いロシアのベルゴロドで行われた廃棄処分では、大型トラックの荷台から地面に投げ落としたチーズを巨大なローラーで押しつぶし、それをブルドーザーで集め、あらかじめ掘っていた穴に埋めた。
食料品をこのように処分する事態に、国民から強い反発の声が上がった。「密輸に携わった人々を罰するか、罰金を科せばいい。食糧は老人ホームや保育園、障害者など社会的弱者に分けるべきだ―」
特に、第二次大戦中にナチス・ドイツに900日間包囲され、市民が飢えに苦しんだサンクトペテルブルクでは強い批判の声が上がり、中心部のネフスキー通りでは抗議活動が行われた。
もっとも、政権側にひるむ様子はない。密輸農産物の処分により密輸品が店頭に並ぶことがなくなり、国内農業を守ることができると主張。メドベージェフ首相も「これは、欧州の人々に痛みを与えることが目的ではなく、ロシアの農家が計画的に農産物を生産できるようにするためだ」と語っている。
実際、ロシアの農家からは政権を支持する動きが起きている。南部のサラトフでは、「有害な農薬を使った食品は廃棄すべきだ」として、密輸された農産物の廃棄を支持する署名運動が始まった。
しかし、これら動きは一部にとどまる。政権と近い関係にあるロシア正教の主教らからも、「食べ物をこのように扱うべきではない」と批判の声が上がった。反政権ブロガーとして知られるナワリヌィ氏は政府文書を基に、「モスクワ市や国防省、内務省などはバンケット用にフランスのロックフォールチーズやスイスのグリュイエールチーズなどを購入している」と、禁輸品の可能性が高いこれら高級チーズを自分たちだけ楽しんでいると痛烈に批判した。






